踊れるオペラと、踊らないバレエ:東京フィルハーモニー交響楽団 第970回サントリー定期

ミハイル・プレトニョフはロシアの巨匠ですけれど、スイスに住んでいるということもあり、日本への出入国については比較的自由なようですね。プーチンと近すぎるというわけでもないようですし。そんなプレトニョフが指揮した東フィルの定期はきわめてユニークなプログラミングでありました。

前半にはシチェドリンのカルメン組曲。これはビゼーの本歌取りのような作品。後半はチャイコフスキーの「白鳥の湖」組曲。プレトニョフによる特別編集版。

シチェドリン:カルメン組曲

迂闊にも、シチェドリンがご存命であることを知りませんでした。私の中では、いかにもソヴィエトの作曲家という位置づけです。その彼の代表作のひとつであるカルメン組曲。私は実演では初めて。

管楽器は全員お休みで、弦5部と打楽器群。打楽器のラインアップは、総出と言っても良いくらいで、5人の奏者が各々最低3種くらいを掛け持ちで演奏しておりました。

曲は、いかにも才人の作品。非常に凝っていて、楽しむことができました。もともとはオペラをベースにしたものですが、奥さんであるプリセツカヤのために作っただけのことはあり、非常に踊れる曲となっていました。これも実演で聴かないと実感できないことですね。

東フィルのパーカッション群、大健闘でした。

それと、東フィルの弦がノリノリで演奏していて(良い意味で)、これはさすがに劇場オケであるなと感嘆しました。

チャイコフスキー:「白鳥の湖」組曲。プレトニョフによる特別編集版。

このプレトニョフによる組曲は、バレエ音楽というよりも交響詩でした。

以前、アラン=タケシ・ギルバートが彼自身の編曲による「ラインの黄金」組曲を披露したとき、私は、これは「交響詩ブリュンヒルデ」だと感じましたが、今回もそれと近いものがありました。これ、「交響詩オデット」です。

この曲のいかにも「踊れる」演奏となると、巨匠ラザレフでしょうかね。もう、舞台情景が目に浮かぶような演奏。プレトニョフはとてもシンフォニックな演奏で、あの小澤さんの録音を想起せるものがありました。(音作りは全然違いますが、「シンフォニック」という意味で。)

圧倒的に説得力のある演奏で、私は感銘を受けました。

プレトニョフも、指揮台にスコアを乗せてはいましたが、全くめくることなく暗譜で振り通していたのはさすがでした。

オーケストラについて

先ほども書きましたが、東フィルのノリは素晴らしく、日本で最も劇場経験が豊富なオケであることを感じさせるものでした。白鳥では、オーボエの佐竹さん、Bravo でした。彼の音色と曲想が非常にマッチしていたように思います。

プレトニョフについて

東フィルとの演奏は、私にとっては今回で3回目。その昔、彼が指揮者活動に本腰を入れてベートーヴェンの交響曲全集を出したとき、本邦の批評家諸兄は非常に冷たかったことを思い出します。「ピアノ弾いていればいいのに、なんで指揮なんか」といった具合に。私もアシュケナージの例があるので、指揮者プレトニョフを敬遠していたのですが、今回、ベートーヴェンの全集を購入してみました。

まだ断片的にしか聴いていませんが、案外良いように思います。とくに偶数番号。この人、ロシア人であるが故に録音レパートリーに偏りがあるのですが、もしかするとバレンボイムに比肩する指揮の才能をお持ちではないかと、ひそかに思った次第です。

素晴らしい演奏会でした。ありがとうございました。

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元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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