「音楽する」ということ:東京ユヴェントス・フィルハーモニー第27回定期演奏会

はじめてユヴェントスの演奏会に出かけたのは2016年1月9日。忘れもしない、ブルックナーの交響曲第8番でした。深い呼吸を感じさせる雄渾な音楽。およそアマオケらしからぬ技術の高さ。すごい時代になったなあ、と感じ入ったことを今でもはっきり覚えています。

あれから9年。いまやアマオケの雄である新交響楽団に次ぐ地位を確立したと言えるユヴェントス。今回はちょっと面白いプログラム。1月4日ということもあってかミューザ川崎は満員とまでは行かなかったものの、熱心な聴き手が集まり、良い雰囲気でありました。

バルトーク:中国の不思議な役人

演奏会用組曲での演奏。といっても、2011年のサイトウキネン音楽祭に行けなかったため、私は舞台版全曲を聴いたことはないのですが。

バレエ音楽というよりも、管弦楽組曲としての演奏であったように思います。まあ、オケの上手いこと。アマオケであることを忘れて聴きました。特筆すべきだったのはクラリネットとトロンボーン。高い技巧もさることながら、表現意欲の強さを感じました。本当に素晴らしい。

フィナーレで指揮者の坂入さんが糸の切れた操り人形のように二つに折れて終曲したのですが、そうか、坂入さんが不思議な役人であったのか(笑)、と思い当たった次第です。

あと、プログラムの解説文が「バルトーク・ベラ」となっていて、「ベラ・バルトーク」ではなかった点、語学マニアの私としては高得点です。ハンガリー語では、日本語などのウラル・アルタイ語系言語と同じように、苗字が名前に先行するんですよね。

バーバー:ヴァイオリン協奏曲

ソリストは若尾圭良さん。「ケイラ」と読みます。18歳のお嬢さん。お父様はボストン響のオーボエ副首席奏者である若尾圭介さん。お父様もこの曲限定で3番奏者としてオケに参加されました。

中国の不思議な役人のおどろおどろしい世界のあとにこの曲が響くと、春風が吹くような印象がありました。いたずらに技巧を要求するような曲ではありません。若尾さんのソロはしっかりとした構成感をもったものだと感じました。大器です。この夏にはタングルウッド音楽祭にデビューするとのことですので、今後が期待されます。

アンコール:バッハ バイオリンとオーボエのための協奏曲から第二楽章

若尾さんへの盛大な拍手が落ち着いたところで舞台袖から譜面台2本と、チェロを抱えた坂入さんが登場。チェロ首席の席に坂入さんが着席して、若尾親娘によるアンコールが始まりました。これがたいへん素晴らしい演奏でした。

バッハの作曲意図はともかくとして、父親から娘へのラブレターという感のある、この上なく情がこもった演奏で、会場の温度が1〜2度上がりましたね。お父さんが44歳のときに誕生したお嬢さんということになるので、もうめちゃくちゃ可愛いいんでしょうね。

ストラヴィンスキー:春の祭典

以前はプロオケにとっても難曲だったこの曲を、アマオケが軽々と演奏するという、すごい時代になりました。坂入さんの解釈は、テンポよりも旋律に寄ったもの。それだけ個々の奏者にとっては技巧が要求されるわけですが、みなさんお見事でした。

冒頭のファゴットのソロ、素晴らしい。終演後、指揮者が真っ先に立たせていたのも当然の出来栄えでした。ちなみに初演時にモントゥーの指揮でこのソロを吹いたのは、名手フェルナン・ウーヴラドウーの父で、やはりオペラ座の首席であったフランソワでした。作曲者がファゴットにとって上限に近い音域を用いたのは、鶏が死にそうな感じの切羽詰まった音を期待してのことだったそうですが、実際には名手フランソワはやすやすと美しく吹いて作曲者をびっくりさせたとのことです。

管楽器の首席たちにとってのオケコンのような演奏で、みなさんの技倆の高さに圧倒されました。すごかったです。でも、何よりも素晴らしかったのは、みなさんの演奏意欲の高さ、強さ。これこそがアマオケを聴く醍醐味であると思いました。まさにmusizieren 。

 

この演奏会が私にとっての2025年の聴き初めでした。素晴らしい演奏会でした。ありがとうございました。

この記事を書いた人

アバター画像

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

詳しいプロフィールはこちら