80歳にならんとするマエストロの奔放なブルックナー:大阪フィルハーモニー交響楽団第540回定期演奏会

コロナ・ウィルス感染拡大のために各国が渡航規制を敷き、国境を超えた人の流れがパタリと途絶えてから早や3ヶ月。外国人指揮者が空けた穴を埋めるのは日本人指揮者となるわけですが、結果として平時では聴くことができなかったであろう組み合わせが生まれているのが面白いところです。大フィルでのユーベル・スダーンの代役は、なんと飯守泰次郎さん。スダーンの曲目はそのまま引き継いで、モーツアルトの交響曲第35番「ハフナー」とブルックナーの交響曲第6番。スダーン指揮であればあまり食指が動かない私ですが、飯守さんとなれば話は別。予定を調整して大阪へ向かいました。

私が初めて飯守さんの演奏を聴いたのは1983年10月21日。レーゲンスブルグ歌劇場の音楽監督であった飯守さんが久しぶりに帰国し、都響を振ったコンサートでした。このときの曲目はちょっと面白くて、前半がブラームスのヴァイオリン協奏曲(ソリストは加藤知子さん)、後半がムソルグスキーの「展覧会の絵」。前半と後半で全く違う響きをつくりたかったのでしょうか。私が感心したのは前半のブラームス。当時、どちらかというとアメリカ的な音だった都響から、重厚なドイツの音が出たのにびっくりしたことを今でも鮮明に覚えています。

あれから37年。当時43歳の中堅指揮者であった飯守さんは80歳(正確には79歳と10ヶ月)の巨匠となられました。歳月が流れるのは早いですね。私自身も8月に還暦ですし。

モーツアルト:交響曲第35番「ハフナー」

オケは12型。先日の東京交響楽団とのメンデルスゾーンの時にも感じたのですが、飯守さんの指揮だと木管の後列(クラリネットとファゴット)がよく聞こえます。ファゴットが長く伸ばしているところとか、強調するといってもよいくらい。東響のときは名手福士マリ子さんがお見事でしたが、大フィルもなかなか。前半のトップは小林さんが吹いておられましたが、豊かな音でした。

飯守さんは溌剌とした指揮。若さを感じさせるモーツアルトでした。思えば大巨匠ピエール・モントゥーは北ドイツ放送交響楽団と活き活きしたハフナーの録音を遺していますが、あのとき彼は89歳だったか

ブルックナー:交響曲第6番

3番以降のブルックナーの交響曲の中で、もっとも演奏されないのがこの曲。日本におけるブルックナーの伝道者であった朝比奈隆先生は、大フィルと7番を30回(!)、8番を23回演奏された一方で、この6番は4回だけであったとのこと。

しかし、実は私はブルックナーの全作品の中でこの曲が一番好きで、何をおいても聴きに行くことを心がけています。

ブロムシュテット/シカゴ響(シカゴでの初演!)、バレンボイム/シカゴ響、大野/都響、カンブルラン/読響、下野/広響、上岡/新日。 今年はノット/東響も予定されているのですが、どうなることか

実演での最高の体験は、横浜みなとみらいで聴いた上岡/新日。これは本当に素晴らしかった。壮麗の極みだったのはブロムシュテット/シカゴ響。このときのトランペットはハーセスでしたからね。シカゴ響金管群の最盛期でのオルガン・トーン。言葉も出ない凄さでした。

さて、飯守さんの6番。ゆったりとしたテンポでの大伽藍を予想していたのですが、奔放な大河のような演奏となりました。テンポを動かし、アッチェレランドをかけるのでオケは大変だったのではないでしょうか。首席トランペットが遅れかける局面もあり、ハラハラしました。非常に面白い演奏で、第三楽章ではワーグナーのワルキューレの第一幕を思わせるところがあったり、チェロパートがトリスタンのように歌ったり。構造感よりも「歌」のブルックナーでした。これはこれでありかと思います。

オケは16型。ホルンとトランペットには1アシも。金管は大健闘。とくに22歳の若さでトロンボーン首席に就任した福田えりみさん率いるトロンボーンセクションは豪快の一言。気持ちの良い鳴りっぷりでした。

開演前、事務局の方が、ステージに上がって、今回期せずして大フィルにとって重要なレパートリーであるブルックナーを飯守さんに振ってもらったことは大きな収穫であったと述べられていましたが、その通りの実りのある演奏会になったように思いました。朝比奈先生のブルックナーを体験した楽団員は、もう数えるほどしかいないはずですよね。

そして飯守マエストロについて

飯守さんはバイロイト音楽祭の副指揮者を20年弱にわたって務めた方。ホルスト・シュタインの指輪やパルシファール、そしてブーレーズ&シェローの指輪も裏方として経験されています。巨匠としての円熟期の演奏を、聴き逃さないようにしたいと思いました。まあ、まだまだお元気なご様子ではありますが。

ところで、飯守マエストロの伯父さんは、田中耕太郎先生なんですよね。法学部卒の者としてはちょっと感慨があります。

この記事を書いた人

元永 徹司

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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