特別な日の、特別な演奏:広島交響楽団 「平和の夕べコンサート」2024年

8月6日は広島にとって特別な日。広響は毎年、6日の前後に特別演奏会を開催しています。昨年は5日にフォーレのレクイエムを中心とするプログラムでした。今年は新しく音楽監督に就任したクリスティアン・アルミンクの指揮で、マーラーの交響曲第2番「復活」。

ヴィーン生まれヴィーン育ちのアルミンクにとってマーラーは重要なレパートリーで、今までに新日本フィルと3番、5番、大地の歌、嘆きの歌を録音しています。今回はメゾ・ソプラノの藤村実穂子さんがソリストということで、「特別感」が一層高まることとなりました。

この日の広島はとりわけ暑く、強烈な西日の中をHBGホールへ。

いわゆる「遅刻対策」の序曲などを入れずに、プログラムは「復活」のみ。これは正解でしょう。

広響は2管編成のオケなので、今回はエキストラが沢山。注目を引いたのがホルンで、日フィル首席の丸山さん、神奈フィル首席の豊田さんがバンダで参加。ステージの上には懐かしい山本真先生も。オーボエには芸大フィルハーモニアの戸田さんも。

マーラー 交響曲第二番「復活」

私にとってアルミンク/広響のマーラーは、2022年の「平和の夕べ」コンサートで3番を聴いて以来。あのときはオケ、とくにホルンとしっくりしない感があり、大枠としては「泣ける」演奏だったけれど、細かい傷が多々あるのが気になった記憶があります。アルミンクはもともと細かく振れる指揮者ではありませんから、正直言って今回もちょっと不安ではありました。

が、幸いなことに、それは杞憂でした。この2年の間に、広響の演奏能力、とくに木管群が向上しているのが明らかに聴き取れたのは嬉しいことでした。クラリネットに三界ジュニアが参加したのは大きいですね。

この曲はショルティ以来、冒頭のコントラバスを激奏させることが多いのですが、アルミンクは中庸。私はこちらの方が好み。フレーズを丁寧に繋いでいく指揮。終始、指揮棒を使わないため、柔らかい感じ。

第2楽章、そして第3楽章はヴィーンの指揮者としての面目躍如で、広響の弦から馥郁とした香りがしました。ここはアルミンクにとっても会心の演奏だったのではないでしょうかね。

今回、合唱は冒頭からステージに乗っていました。ですので、藤村さんの入場は第2楽章と第3楽章の間かと予想していたのですが、さにあらず。第3楽章の終了間際に入場。

当然、第四楽章にはアタッカで入り、藤村さんが ”O Röschen rot…” と歌い出すと、ホールの空気が変わりました。さすがです。ちなみに、今回のプログラムの訳詞も藤村さんがされてます。良い訳だと思います。

第五楽章ではトランペットの亀島さん、トロンボーンの清澄さん、傑出した出来栄え。本当に素晴らしい。ホルンの新しい首席の小田原さんも、実に立派でした。この曲ではバンダも重要ですが、ホルン隊、お見事でした。山岸さん、丸山さん、豊田さんですからね、当たり前なのかもしれませんが。そして、合唱は期待を上回る出来でした。Bravi !

いやいや、素晴らしい演奏でした。大成功だったのではないでしょうか。このホールにはフライングブラボーのオヤジが生息していて心配だったのですけれど、今回は大丈夫でした。終演後は大拍手。アルミンクもとても嬉しそうでした。

この記事を書いた人

アバター画像

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

詳しいプロフィールはこちら