本来であれば、常任指揮者でありフランクフルト歌劇場の音楽監督でもあるセヴァスティアン・ヴァイグレのタクトでヴァーグナーのヴァルキューレ第一幕に酔っていたであろう7月14日の夜。コロナ・ウィルスによって状況は一変し、読響の演奏会再開の端緒として企画された3回の特別演奏会の第2夜となりました。期せずして若手指揮者の起用となったわけですが、これが良かった。人生万事、塞翁が馬ですね。
指揮はアメリカを中心に活動している気鋭の原田慶太楼。曲目は、コープランドの「市民のためのファンファーレ」そして劇の伴奏音楽である「静かな都市」、そしてハイドンの交響曲第100番「軍隊」。休憩を挟まず、1時間強の通しの演奏となりました。
コープランド:「市民のためのファンファーレ」
プログラムを眺めて、「はて?」という曲でしたが、聴いてみて、「ああ」と思いました。この前はどこで聴いたんだろう。ラヴィニアかな。ド派手な曲ではなく、シリアスな感じで、私は気に入りました。
開演前の原田マエストロの解説によれば、その昔シンシナティ交響楽団の常任指揮者だったユージン・グーセンスの発案で、あるシーズンの全演奏会をファンファーレで始めることにして、その作曲をアメリカの現代作曲家に委嘱したもののひとつだそうです。原田さんはシンシナティ響の副指揮者だったので、コープランド自筆の楽譜も見たことがあるとか。
コープランド:「静かな都市」
もともとはアーウィン・ショーの演劇への劇伴音楽で、滅多に演奏されないのだそうです。もちろん私も初めて聴きました。擬人化されたトランペットとイングリッシュ・ホルンがソロで大活躍する曲でした。トランペット=男性、イングリッシュ・ホルン=女性であることは明らか。聴き手がそれぞれの思い入れをこめることのできる曲であると言えるかもしれません。
ソリストはイングリッシュ・ホルンが北村貴子さん、トランペットは辻本憲一さん。お二人とも、読響の首席奏者で、とても安定した、素晴らしい演奏でした。個人的な見立てとしては、北村さん>辻本さん であったかもしれません。
ハイドン:交響曲第100番「軍隊」
開演前の解説では、「ファンキーな曲」ということでしたが、まさにそういう解釈の演奏であったかと思います。良い意味で。
もうちょっと踏み込めば悪趣味、というところまで突っ込んでいましたが、一人よがりにオケをドライブするということははなく、羽目をはずす上でオケを「共犯者」にする演奏でした。木管の首席奏者たちが、それはそれは楽しそうに演奏していて、この辺りに私は原田慶太楼の才能を感じました。
アンコールはシューベルトの軍隊行進曲
この曲は、私が小学生のときの愛聴盤のひとつでした。でも、もしかすると、オケの生演奏で聴いたのは今回が初めてであったかもしれません。
原田慶太楼さんもオケを乗せるのがうまくて、この曲の中間部はコンチェルトのカデンツァであるかのように、各奏者の自主性に委ねた演奏でした。ブラヴォーであったと思います。
オケについて
敬称略で、日下コンミス、サイドは小森谷さん。第二ヴァイオリン瀧村、ヴィオラ鈴木、チェロ遠藤、コントラバス石川、オーボエ蠣崎、フルートはドヴリノフ、クラリネット金子、ファゴット井上。 ホルン松阪、ペット長谷川でした。気合が入っていてとても良かった。
そして原田慶太楼
この噺家のようなファースト・ネームと、本人の容姿、ならびに指揮ぶりのギャップが気になって仕方ありません。名前の由来については、いずれ解き明かされること期待します。ちなみに小澤征爾さんの「征爾」は、関東軍参謀長であった板垣征四郎と、作戦主任参謀だった石原莞爾から一字ずつもらったという凄い名前です。
私は原田慶太楼さんを初めて聴いたのですが、良い指揮者であると思いました。大柄でジェスチュアが大きいところは、その昔の井上道義さんを想起させるものがありますが、音楽の作りは原田さんの方が緻密です。
アメリカ中心のキャリアなので、今までのところコープランドとかガーシュインとか、「色物」を振らされることが多かったかと思いますが、これからは本格的な作品を聴かせてもらいたいものです。ラヴェルとか、結構良いのではないかと期待が膨らみます。
どうやら対向配置にこだわりを持たれているようで、個人的にはポイントが高いですかね。この日もそうでした。
良い演奏会でした。原田慶太楼さんにとっても会心の出来であったかと思います。「一般参賀」も1回ありました。大成功だったのではないでしょうか。