当代きってのオーボエの名手、フランソワ・ルルー。 近年は指揮者としても活動しています。前回(2022年)には日フィルとドヴォルジャークの管楽セレナードやビゼーの交響曲第1番を演奏。オーボエがめちゃめちゃ巧いのはもちろんですが、指揮者としても意外に(失礼!)良かった印象がありました。今回は2年ぶりの来日。指揮者としてはメンデルスゾーンの交響曲第3番を振るということで、期待に胸を躍らせてサントリーホールへ。
曲目は前半がラフのシンフォニエッタ。これは木管十重奏。そして弦5部とのメンデルスゾーン「無言歌集」抜粋。 後半はメンデルスゾーンの交響曲第3番「スコットランド」
ラフ:シンフォニエッタ ヘ長調 作品188
ラフはブラームスやワーグナーと同時代人。どちらかというと「忘れられた人」ですが、この作品は比較的演奏されていますかね。のちのリヒャルト・シュトラウスの The Happy Workshop を連想させる、楽しく、華やかな曲です。ただ、聴いていて思ったのは、この曲は聴くよりも演奏する方が楽しいのではないでしょうか。もちろん、かなりの腕前が必要ですが。
メンバーは、敬称略で、ルルー、杉原(ob)、真鍋、難波(fl)、伊藤、堂面(cl)、信末、村中(hr)、田吉、大内(fg)。
やはりルルーの存在感は圧倒的でした。しかし前回のドヴォルジャークと異なるのは、日フィルのメンバーが積極的にルルーとわたりあっていたこと。とくに信末さん。ミュンヘンARDに挑んだ成果を感じました。
メンデルスゾーン:「無言歌集」抜粋
オリジナルはピアノ曲。タルクマンが独奏オーボエと弦五部のために編曲したもの。ルルーが吹き振りしたのですが、まあこれが素晴らしい。オリジナルは歌曲だったの?と思うほどです。
ルルーはピエール・ピエルロとモーリス・ブールグに師事したということで、まさにフランスのオーボエの伝統の王道を行く人なのですけれど、今回あらためて思ったのはオペラ座の奏者であったのだな、ということでした。(ルルーは18歳でオペラ座の首席奏者に抜擢されています。)オペラ座での前任者でもあるピエール・ピエルロもそうだったのですが、歌うことの素晴らしさ。ヨーロッパでは指揮者はオペラを振ってこそ一人前であるとよく言われますが、実は管楽器奏者にも言えることかもしれませんね。
オーボエの表現能力の極限を見る思いがしました。Bravissimo !
メンデルスゾーン: 交響曲第3番「スコットランド」
自分としては意外なことでしたが、今回はこの曲が最大の収穫でした。言うまでもなく、オットー・クレンペラーとペーター・マークによる二つの大名演が遺されていて、今まで聴いた演奏はこの二つの間のどこかに落ち着いていたように私は感じていましたが、ルルーは異なる姿を提示してくれました。良い意味で、「え、こんな曲だっけ?」とびっくり。
西洋古典音楽に於いて、オーケストラの幹は弦楽器であり、管楽器は枝葉であるというのは認めざるを得ないところです。先般、晴れオケの公開リハーサルを聴く機会に恵まれたのですが、やはりそう感じました。
ルルーの指揮は、そこを崩しているというわけではもちろんありません。が、枝葉とはいえ、どんな枝ぶりなのか、葉の形、色はどんなものなのか、を生き生きと、詳細に描くというのが凄いのです。単に管がよく聞こえるという話ではありません。加えて、演奏者に自由度を与えつつ、インスピレーションを刺激するリーダーシップの素晴らしさ。演奏者はとても楽しかった筈です。
結果として、とても美しい油彩の風景画のような演奏となり、私はルルーの指揮者としての力量に驚きました。彼はバイエルン放響で長く首席オーボエ奏者をつとめていたわけですが、その期間の学びがいかに大きかったか、ということなのでしょう。そういえば、巨匠ルドルフ・ケンぺもゲヴァントハウス管の首席オーボエ奏者でした。ケンぺはスコットランドを遺していませんが、もしかすると近い印象の演奏になったかもしれませんね。
実に素晴らしい演奏で、私はスタンディングオベーション。いわゆる一般参賀こそなかったものの、大喝采でした。ルルーの指揮は、これからの日フィルの目玉のひとつになりうるものです。再招聘を強く望みます。(と、平井理事長にもお願いしました。)
終演後。これは金曜日ですかね。私が聴いた土曜日はほぼ満席でした。あ、日フィルのSNSからお借りしました。