オーケストラの音が変わった!:東京フィルハーモニー交響楽団第958回サントリー定期

7月に1番と2番を演奏し、2ヶ月の間を置いて3番と4番。作曲順に演奏するのはブラームスの成熟の軌跡を追うことになるわけですが、意外なことに、というか、だからこそ、と言うべきなのか、7月とは印象が大きく異なる演奏会となりました。

曲目は前半が3番、後半が4番。かなりな数の招待客がいたとみえて、サントリーホールはおそらく5割を超えての客入り。久しぶりに賑やかな感じとなりました。

ブラームス:交響曲第3番

冒頭部分からオーケストラの鳴りっぷりが凄い。第1番の冒頭も同じように劇的であるわけですが、7月は意外にあっさり入った記憶があります。このあたり、ブラームスの交響曲作家としての成熟が反映されているというのがチョンさんの考えなのでしょうね。

第二楽章。ホルン、クラリネット、ファゴットのアンサンブルが美しい。ヴィオラとチェロもとても良く鳴っているので、中欧のオケのように聞こえます。

第三楽章。高校生のとき、数学の先生が急逝され、体育館で学校葬が行われたのですが、そのときにこの第3楽章が流されました。その記憶が拭えず、私にとっては特別な音楽です。 昨日、チョンさんはアタッカで入ったのですが、誰かがプログラムを落としてノイズが響いたのには興醒め。お願いしますよ、もう。

この楽章は弦の見せ場。素晴らしかったです。

第四楽章。チョンさんの気合も凄いし、オケの神がかり的な反応も凄い。いやいや、やっぱり凄い曲だったのね、と感心しました。終演後、指揮者が脱力するまで静寂が保たれたのも良かったです。

ブラームス:交響曲第4番

4番に入って音楽のカロリーがさらに増えた感があり、今までに聴いたことの無い熱量の演奏となりました。クライバーが示しているように、この曲は指揮者にとっての試金石たりうるのですね。チョンさん、7月とは別人のようです。圧倒されているうちに、音楽が終わりました。小賢しいことを言っても仕方ないですね、この演奏に対しては。

アンコールはハンガリー舞曲第一番

これぞ巨匠的な、天翔けるような演奏。焦ってホールを出た人々は大損しましたね。

オーケストラについて

指揮者に対しての絶対的尊敬と献身。それがあるとこんな音が出るのですね。全員がチョンさんの音楽を実現しようと音楽家としてのベストを尽くした、という印象でした。

クラリネットのベヴェさんはA管とB管を持ち込んでフレーズに合わせて持ち替えていましたし、ファゴットの広幡さんもリードを4種類使ったそうです。まさに総力を挙げての演奏だったのですね。

7月の1、2番は、ドイツ系の巨匠による石造の大聖堂のような演奏ではなく、法隆寺の五重の塔のようなしなやかな均整美を感じさせるものでした。これに対して、今回の3、4番は中、低音域、具体的にはホルン、クラリネット、ファゴット、ヴィオラ、チェロがとても鳴っていました。「厚い」というよりも「豊か」。東フィルには失礼かもしれないけれど、シュターツカペレ・ドレースデンを連想させる響き。こんな音が出せるのか、とびっくり。

木管は、フルート斎藤さん、オーボエ佐竹さん、クラリネットはベヴェさん、ファゴットは広幡さん。クラとファゴットの合わせは見事。ベヴェさんはいつもに増して自由自在に吹いていて、素晴らしい。クラにあれだけ吹かれると、楽器特性上、音量面でファゴットが対抗するのは難しいですね。そこでクラの音量を調整しなかったのは指揮者の意向ということなのでしょう。ブラームスはクラリネットとホルンが大好きですからね。ベヴェさんにばかり注目が集まっていましたが、広幡さん、お見事でした。

素晴らしい演奏会でした。チョンさんにはコロナで流れてしまった「復活」の再演をお願いしたいところです。期待してます。

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元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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