ある芸術家との一期一会:岡山潔メモリアル・コンサート~岡山先生の思い出とともに

あれはもう20年前。友人から、彼の後輩が母校のオケにエキストラで出演するので聴きにいかないかと誘われました。曲目はベートーヴェンのバイオリン協奏曲とドヴォルザークの交響曲第7番。あと、何かの序曲があったはずですが、それは記憶にありません。ドヴォルザークの7番はそのころはレアな曲で、実演で聴いたことはなかったため、週末の午後に蒲田のアプリコホール(だったと思う)へ向かいました。

指揮は芸大の院を出たばかりの若い人。申し訳ないけど、今となっては名前も覚えていません。

しかし、バイオリンのソリストは実に素晴らしかった。温顔に微笑みをたたえて登場し、終始、オケと指揮者をリード。第1楽章冒頭のソロからオケに旋律を受け渡すときの、なんと慈愛に満ちた様子。その卓越した演奏によって、この曲の全体像を私たちに示してくれました。

このときのソリストが岡山潔さんだったのです。その時点では既に読響のコンマスから退かれ、芸大の教授になられていたことになりますか。

この演奏会以降、ベートーヴェンのバイオリン協奏曲を聴くとき、岡山さんの演奏の記憶が私にとっての基準のひとつとなりました。

時は流れ、今年の7月。読響第二バイオリンの首席である瀧村依里さんの tweet で、岡山さんが昨年亡くなられていたこと、そして命日の10月1日に世界中から教え子たちが帰国して集まり、ちょうど一周忌のタイミングで追悼演奏会が開かれることを知りました。

私は岡山さんとの一期一会の記憶に引っ張られるように、教え子でもないのに杉並公会堂へと足を運んだのでした。ほぼ満席。音楽関係者も多くいらしていたようです。日フィルの事務局の方もおられましたし、N響首席コントラバスの吉田さんの姿も。

前半に室内楽曲を3曲。まず岡山さんの薫陶を受けたクァルテット・アルモニコによる、ハイドンの弦楽四重奏曲第82番。次にモーツアルトのクラリネット五重奏曲K581。クラリネットは四戸世紀さん。そして岡山さんが音楽監督だった神戸室内管弦楽団メンバーによるメンデルスゾーンの弦楽八重奏曲作品20。

後半は世界中から集まった門下生によるオーケストラの演奏で、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」。指揮は山田和樹。彼はこのコンサートの実行委員長でもあります。

関西からの帰京が遅れてハイドンには間に合わず、残念でした。

モーツアルト:クラリネット五重奏曲K581

四戸さん以外のメンバーは、バイオリンが読響の瀧村依里さん、山本美樹子さん。ヴィオラは東京シンフォニエッタの吉田篤さん。チェロは都響の森山涼介さん。

読響の首席だった四戸さんの、よく歌うクラリネット。そして何よりも瀧村さんの音の綺麗なこと! 「あ~、いい曲だなあ」のひとことでした。

 

メンデルスゾーン:弦楽八重奏曲作品20

私はこの曲を初めて聴いたのですが、弦楽八重奏曲ともなると、ほぼ室内オケ的な感じになるのですね。作品番号が示唆するようにメンデルスゾーンが16歳の時の曲。技巧的に大変なところもあるように聴こえましたが、爽快に駆け抜けて、良い演奏でありました。

 

ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」

スケールの大きな、たいへん良い演奏でした。大きさ感でいうと、ちょっと朝比奈先生のような…  もちろん、精緻な工夫もあって、ヤマカズ、見直しました。

プログラムにヤマカズが書いているのをちょっと引用しますね。

僕が大学3年生になったばかりの頃の話である。仲間と立ち上げたオーケストラで、ベートーヴェンの交響曲を第1番から順番に勉強していく計画を立てており、新入生歓迎演奏会において、第3番「英雄」を演奏することにしたのだった。親友の何気ない一言から、岡山先生がゲストとしてコンサートマスターを引き受けてくださることになった。(中略) 先生の一言で音に深みが増し、その意味が生まれ、命が吹き込まれていくようだった。夢のようなリハーサルと本番の時間。僕はいまだに、岡山先生がおっしゃった言葉を一言一句はっきりと覚えている。それほどまでに未知の領域だったのだ。

コンサートマスターと指揮者の間に椅子が一つ置かれていて、その上には花束が。第二楽章を開始する際、ヤマカズが数十秒に渡って祈っていたように見えました。終演後、岡山さんの奥様で、やはりバイオリニストの芳子夫人がステージに招かれ、その花束を受けて満場の喝采に答えておられたのは感動的でした。

オーケストラはとても上手。アシスタントコンマスはバンベルク交響楽団コンミスの砂原さん。バイオリンのトゥッティにコンマス、コンミスが何人も入っていて壮観。チェロのトップは新日首席の長谷川さん。コントラバスのトップは都響の佐野さん。オーボエは大フィル首席の大森さん。ファゴットは日フィル副首席の田吉さんと、読響の岩佐さん。ホルンは元N響の日高さん、といった具合。あんまり練習の時間は取れなかった筈なのに、精緻なアンサンブルでした。なお、弦のボウイングは岡山さんのものを使ったそうです。

演奏者たちの岡山さんへの想いが伝わってくる、とても良い演奏会でした。

そうそう、岡山さんの音源が「岡山潔の軌跡」第1巻、第2巻として発売されました。第1巻にはベートーヴェンのバイオリン協奏曲が含まれています。オケは神戸室内管弦楽団で、指揮はライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の名コンマスだったゲルハルト・ボッセ。これが実に素晴らしい演奏。2002年の演奏なので、私にとって一期一会だった演奏会の翌々年の録音になるかと思います。本当に素晴らしいので、オススメです。

この記事を書いた人

元永 徹司

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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