名人・超人・鉄人:ハインツ・ホリガー <80歳記念>オーケストラ・コンサート

どの楽器にも、その時代を代表する「名人」が存在します。現代のオーボエで言えば、それはハインツ・ホリガーでしょう。もう一人、同い年の名人としてモーリス・ブールグがいるのですが、作曲も指揮も手がけるという点でホリガーの方が明らかに芸域が広い。ホリガーは私がファゴットを始めた40年前の時点で、すでに大名人でした。今年で80歳。その記念コンサートが開かれるということで、とりもなおさず初台へ。

ホリガーが凄いのは、オーボエが超絶的に上手いということに加えて、作曲でも評価され、近年では指揮者としても絶賛されているという点です。もう名人の域を超えて、超人と言わなければなりません。

オーボエの主席はコンマスと並んでオーケストラの中核となるポジションですので、オーボエ奏者として名を成したあと、指揮者に転じることはままあります。歴史的には巨匠ルドルフ・ケンペがそうですね。彼はライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の首席オーボエ奏者でした。ちなみに、そのときのコンマスは後の巨匠、シャルル・ミュンシュです。最近ではN響首席から引退した茂木さんが指揮活動を始められておられます。

今回はホリガーがソリストとしても指揮者としても活躍するというプログラム。80歳になっても超絶技巧の曲を軽々と吹いてしまうという、凄さです。しかも、日本に滞在する3週間の間に7つのコンサート。これって、鉄人ですよね。

さて曲目はというと盛りだくさんで、前半はヴァレシュのトレノス、ホリガー自身の作曲による「2つのリストの作品のトランスクリプション、バルトークのバイオリン協奏曲第一番(ソリストは郷古廉さん)、細川俊夫の「結びーハインツ・ホリガーの80歳の誕生日を祝して」(世界初演!)。後半はマルティヌーのオーボエ協奏曲、そしてラヴェルのスペイン狂詩曲。これは長いプログラムですよ。オーケストラは最近になって躍進が伝えられている、東京シティフィル。

ヴァレス:トレノス

ホリガーの作曲の先生だそうです。トレノス自身の作曲の先生はコダーイ、ピアノの先生はバルトーク!

バルトークの死を追悼する作品とのことで、暗いトーンが支配します。しかし楽想の豊かな曲で、楽しんで聴きました。

 

ホリガー:2つのリスト作品のトランスクリプション

短い割に編成の大きな曲で、コントラバス・クラリネットや、バス・フルートまで登場します。まさに現代音楽という曲なのですが、綺麗でした。

 

バルトーク:バイオリン協奏曲第一番

12月に同じ曲をギルバート/矢部/都響でやるので、予習を兼ねて聴きました。郷古さんのバイオリンがシャープで素晴らしいのはいうまでもありませんが、ホリガーの指揮が素晴らしい。本職の指揮者でも80歳となるとそんなにキチンと振らず、巨匠的な棒になることが多いのですが、ホリガーの指揮は敏捷そのもの。的確にキューを出して軽快に振っていたのにはびっくりさせられました。

シティフィルも上手い。とくにオーボエ、コール・アングレ、ファゴットというダブルリード群は大健闘。茂木さんがエッセイで書いている「巨匠の浄化作用」が発揮されたことがうかがえました。

 

細川俊夫:「結びーハインツ・ホリガーの80歳の誕生日を祝して」

オーボエとコール・アングレの2重奏の曲。響きとしては、雅楽を想起させるものがありました。これがまた80歳の奏者相手に書くような曲ではありません。バリバリの若手でもきついでしょう。ホリガーは楽々と吹ききっていて、もう超人としか形容のしようがありません。アングレはマリー=リーゼ・シュプバッハ。このひともとても上手。

ここで休憩。細川さんの曲を吹いたあと、たった15分の休憩を挟んでマルティヌーのオーボエ協奏曲を「吹き振り」するというのは、まさに鉄人。

 

マルティヌー:オーボエ協奏曲

もともと技巧的なこの曲を、快速テンポで飛ばしていく凄さ。もう何も言えません。凄い。

オケの木管セクションは渾身の集中力でホリガーにつけていきます。彼らのプレッシャーも大変なものであったでしょう。コンマスは客演で名手、荒井さん。弦は荒井さんが「任せろ!」という感じでしたね。

 

ラヴェル:スペイン狂詩曲

熱狂のマルティヌーの後、今度は指揮者として時計細工のように精巧なラヴェル。第一曲の「夜への前奏曲」は冴え冴えとした月夜を思わせる演奏。「祭」はエネルギーの爆発。すごく色彩感が豊か、というふうにならないのは、ホリガーらしい。彼はオーボエ吹きとしても、「音色で勝負」の人ではありませんからね。

長い演奏会で、終わってみたら21:20でした。聴衆の中には、疲れを隠せない人もちらほら。それに引き換え、ホリガー先生は元気いっぱいでした。凄い。

 

オケについて

東京シティフィル、上手くなりましたね! 堤さんが結成した頃は、この先どうなるんだろうかと正直言って思いましたが、飯守さんの頃から実力が向上してきたかに思います。この日はオーボエの本多さん、ファゴットの皆神さん、素晴らしかった! 特筆すべきだったのはアングレの高橋舞さん。昨年入団した方とのことですが、将来が期待できますね。何よりも度胸がいい。

この記事を書いた人

元永 徹司

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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