なんと今年3回目~緻密にして壮麗な「グレの歌」:東京交響楽団ミューザ川崎15周年記念演奏会

東京というのは世界的に見ても恐ろしい音楽都市。今年は激レアな曲であるハンス・ロットの交響曲の演奏会が3回(N響、神奈フィル、読響)行われましたが、今日は同じく今年3回目になるシェーンベルクの「グレの歌」の演奏会。3月のカンブルラン /読響、4月の大野/都響に付いでの3回目の演奏でした。「グレの歌」は舞台に乗り切れないくらいの大編成プラス合唱団が必要な曲ですので、これが1年に3回聴けるのは、おそらく世界でも東京だけではないでしょうか。

さて、今日と明日行われる記念演奏会の指揮は、もちろん音楽監督のジョナサン・ノット。歌手はヴァルデマールがテノールのトルステン・ケール、トーヴェがソプラノのドロテア・レシュマン。重要な役である山鳩はアルトのオッカ・フォン・デア・ダムラウ。農夫はアルベルト・ドーメン、道化師はノルベルト・エルンスト。これも重要な「語り」はサー・トーマス・アレン。本来は4月の都響の演奏会で圧倒的な歌唱であった藤村さんが山鳩を歌う予定だったのですが、配役変更となりました。

「グレの歌」のあらすじについては4月のブログをご覧ください。

 

第一部

出だしはホルンの刻みがずれたりして、やや不調なスタート。ヴァルデマール王とトーヴェの愛の場面あたりまではオケも乗り切れない感じが若干ありましたが、トーヴェの死を暗示するイングリッシュ・ホルンのソロのあたりから調子が上がってきました。でもトーヴェの葬送の行列あたりはもう少し凄みが欲しい。でも、それは4月の藤村さんがあまりにも素晴らしかったからですかね。

第一部については、3月のカンブルラン /読響に軍配があがると私は思います。あの明晰さは比類のないものでした。

ここで休憩。15周年記念に便乗してアンリオのシャンパンを売ってまして、すかさず飲んだ私。良い演奏にシャンパンは合いますよね。ロビーはすごい人出でした。

 

第二部

あっという間に終わる第二部。ヴァルデマール王の涜神の場面も、ちょっとインパクト弱いかと。このあたりもカンブルラン が素晴らしかった。

 

第三部

今日、圧倒的に素晴らしかったのは第三部。なんという緻密なアンサンブル! そして、その結果として得られる壮麗なスケール感。今日は東響の楽団員は全員出演と聞いていますが、一丸となった集中力は凄い。ラグビーの日本代表のような…

「語り」のサー・トーマス・アレンは傑出していました。そしてそのあとの夏の嵐の素晴らしさ。カンブルラン のときには噎せ返るような夏の香りを感じましたが、今日のノットが志向したのは壮麗な伽藍のような音響空間。これはこれで素晴らしい。

終演後は大拍手、そしてノットへのソロ・カーテンコールが2度。明日はもっと良くなる予感がします。

 

オケについて

東響、素晴らしい! 今日の木管の布陣は相澤(fl)、荒(ob)、ヌヴー(cl)、福士(fg)。私としては福士さんのファゴットに痺れましたね。素晴らしい音色、そして表現力!

 

翻訳と解説について

今回も石井不二雄先生の訳が使用されていましたが、誤訳のところは訂正されていました。よかった。

解説には依然として不満があります。今回の解説でもヴァルデマール王が最後の審判で救済されるということを暗示しているのですが、これは誤りだと思います。なぜなら、最後の審判の後に訪れる「新エルサレム」には、昼も夜もないとヨハネの黙示録には記されており、夏の嵐が吹いたりすることはあり得ないからです。それに、道化師が最後の審判について歌う場面では、西洋古典音楽の伝統に従ってトロンボーンが鳴るのですが、ヴァルデマールの神へのアピールの後、夏の嵐への経過部分ではトロンボーンは鳴りません。ここは決定的なポイントです。

最後の審判を待たず、神の特別な恵みによって浄化され、救済されたのはヴァルデマール王の臣下たちで、だからこそ彼らが春の嵐となるのではないかと私は考えています。私が音楽学者であれば、論文を書きたいくらいです(笑)。

この記事を書いた人

元永 徹司

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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