圧巻のニールセン、樹海を思わせるシベリウス:NHK交響楽団6月演奏会

1年半ぶりにN響の指揮台に復帰したパーヴォ・ヤルヴィ。彼ほどのステイタスの指揮者が2週間の隔離に耐えて日本に来てくれたのは素直に嬉しいことです。「首席指揮者」ですものね。それに引き換え(以下、略)

さて、曲目はというと、前半にペルトのスンマ(弦楽合奏版)、そしてシベリウスのヴァイオリン協奏曲。ソリストは青木尚佳さん。後半にニールセンの交響曲第4番。エストニアフィンランドデンマークと、バルト海をクルーズするようなプログラム。

ペルト:スンマ(弦楽合奏版)

教会を連想させる、静かで美しい曲。「これ、合唱でも綺麗だろうな」と思いましたが、解説を読んだら、もともとラテン語のクレドを歌詞とする無伴奏合唱曲だったのですね。失礼しました。Summaってエストニア語でどういう意味だろうかと考えていたのですが、ラテン語の summa = 頂点 でした。

N響の弦が上手いのはもちろんですが、パーヴォが付けていくニュアンスを微細にわたって音にしていく力量はさすがでした。

シベリウス:ヴァイオリン協奏曲

このひと月ばかり、この曲の演奏が続いています。鈴木優人/辻彩奈/日フィル、秋山和慶/金川真弓/都響、そしてパーヴォ/青木尚佳/N響。私はこのうち金川さんを聞き逃して後悔しているのですが。

今日の演奏で特筆すべきであったのは、パーヴォの音づくり。非常にユニークで、しかし説得力のある演奏でした。

多彩なレパートリーを誇るパーヴォですが、シベリウスには非常に思い入れがあるように感じます。彼はパリ管とシベリウスの交響曲全集を録音していますが、これは現時点でフランスのオケによる唯一の全集です。そして、親子で全集を録音しているのも面白いですよね。今後、トーマス・ザンデルリンクがシベリウスを録音しない限り、この記録は破られないでしょう。

出だしから繊細を極めるピアニシモ。オーロラが揺れ動くような響き。独墺系の指揮者だとクラリネットがはっきりと入ってきてしまうのですが、パーヴォはクラリネットにもピアノを、そしてこれは私の推測ですが、くすんだような音色を要求していたのではないかと思います。

全曲を通じて音色についてのこだわりは異常とも言えるレベルで、鬱蒼とした樹海のようです。4番ホルンと2番ファゴットがよく聞こえる演奏というのは、滅多にありません。そして、ときおりコントラバスで強調するアクセント。これは、フィン語のイントネーションを連想させるもの。(ちなみにパーヴォの母語であるエストニア語はフィン語の兄弟言語です。)

青木尚佳さんのソロもテクニックを披露するのではなく、音楽を表現することに力点を置いたもので、その解釈の方向性はパーヴォと一致していたと思います。このひと、素晴らしいですね。

これは初日の写真なのですが、今日は樹海を思わせる深い緑のドレスをお召しでした。

ニールセン:交響曲第4番

この曲、非常に有名ではありますが、私は実演では初めて聴きました。現時点での定盤はブロムシュテット/サンフランシスコ響かと思いますし、私もそれを聴いていたのですけれど、こういう曲はやはり実演を聴かないとわかりませんね。

ちなみにパーヴォはフランクフルト放響と全集を完成させています。父ヤルヴィもエーテボリ響で全集を作っているので、ここでも親子による全集録音という記録が成立していることになりますね。これは破られることはなさそう。

さてパーヴォ/N響の演奏ですが、圧倒的でした。この曲がこんなに多彩な要素を持つ曲であったとは! 「青髭公の城」ではないですが、次から次へと扉が開かれていく感じです。

正直申し上げて、私はパーヴォがあまり好きではないのですけれど、こんな演奏を聴いてしまうと、卓越した力量の持ち主であることを認めざるを得ません。この演奏を凌駕するためにはベルリン・フィルあるいはシカゴ響を持ってこないとダメだと思いますが、では誰が振るんだ? という話ですよね。つまりは、私たちは現時点で世界最高峰の演奏に接することができたということです。凄かった。

オーケストラについて

評論家の池田卓矢さんが夙に指摘されていますが、いまやN響は世代交代が進んで、「若いオケ」です。私の師匠はN響で長らく2番ファゴットを吹かれていた菅原眸先生なので、どうしても「先生たちのオケ」という印象が残っているのですけれど、もう神田さん、藤森さんクラスが最年長とは

プログラムの巻末に団友の方々がパート別に記載されているのですけれど、私たちの世代にとっては、こちらが「ザ・N響」という感じです(笑)。

若いN響、上手さに加えて、柔軟性が素晴らしい。パーヴォへの信頼感もあるのでしょうけれど、昔のような頑なさは無くなりましたね。(某舶来コンマスもいなくなられたし。)

ニールセンの第二楽章での木管アンサンブルは、現在の日本オケの最高峰を示したものであったと思います。Bravi でした。

第四楽章での2台のティンパニの掛け合いは、植松さんと、エキストラでなんと菅原さん(元読響首席)。鮮やかな妙技で、拝見していてとても嬉しかったです。

素晴らしい演奏会でした。

 

この記事を書いた人

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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