「コバケン節」という以外に形容のしようがないマーラー:日本フィルハーモニー交響楽団 第727回東京定期演奏会

「炎のコバケン」も80歳。秋山和慶さん、飯守泰次郎さんと同い年なのですね。みなさんお元気なのは何よりですが、マエストロ・コバケン(小林研一郎さん)はとりわけ元気。毎年1月の日フィル定期はコバケン枠なのですが、今回も小走りに指揮台へと向かう姿は、80歳とは思えません。

この日(1月16日)の曲目は、前半にチャイコフスキーの「ロココ風の主題による変奏曲」。ソリストは新進気鋭の水野優也さん、22歳。後半にマーラーの交響曲第1番。二つの曲の並びに特に理由は無いと思われるプログラムです。

チャイコフスキー:「ロココ風の主題による変奏曲」

とても伸びやかな、若々しい演奏でした。マエストロ・コバケンも指揮台に上がらず、平土間で指揮。祖父が孫を引き立てる趣きでした。全体としてゆったりした曲なので、オケも指揮に頼らずにソリストに寄り添うことが出来て、良い結果となりました。

アンコールはバッハの無伴奏チェロ組曲第一番から、第1曲。この選択は大間違いであったと私は思います。およそ好楽家であれば、この曲に関してカザルスはもちろん、フルニエ、シュタルケルといったあたりの巨匠の名演に親しんでいるわけで、その巨匠たちが心血注いで遺した録音に挑むのであれば、よほどの覚悟が無いとダメでしょう。若いから深みがないのは致し方ないとして、新鮮さも感じられない演奏でした。この選曲、誰か止めてくれなかったのかな  ぶち壊しのアンコールでした(ただし、個人の感想です)。

マーラー:交響曲第1番

私が日フィルでマーラーの1番を最後に聴いたのは山田和樹指揮による全曲ツィクルスだったかと。あれはもう5年も前になるのですね。マエストロ・コバケンは山田和樹さんの師匠ですから、期せずして師弟の演奏に接することとなりました。

さて、どんな演奏であったかというとですね、予想した通りの「コバケン節」となりました。テンポはゆったり、というか重く、フレージングも粘り気のあるもの。音楽の推進力といったものはあまり感じられません。日フィルはコバケンの棒に慣れているはずなのですが、いつもに増してアインザッツが明確でないために木管の入りがずれる局面が数回。

こう書くといかにも酷い演奏であったように聞こえてしまいますが、独特の感動を呼ぶんですよね、これが。私の好みではありませんが、コバケンファンは多くて、終演後は大拍手でした。コロナ禍でなければ、ブラヴォーが飛び交ったであろうことは確実です。

ただ、さすがはコバケン

彼が楽員から敬愛されるのは、コバケンが楽員への敬意をはっきりと形で示すことも一因かと思います。各楽章に入る前に、オーケストラに深く一礼。終演後も観客に向き合う前に、オーケストラに感謝する姿には真摯さがうかがわれます。これがよいのでしょうね。

あと、終演後にいつものようにマイクを手にしてステージに現れ、聴衆への感謝を述べるとともに、日フィルへのさらなる支援を訴えておられました。コバケンの音楽には私はあまり共感できないのですが、彼のこの姿勢にはいつも動かされるものがあります。

オーケストラについて

コンマスは木野さん。コンマスサイドは田野倉さん。ヴィオラのデイヴィッドがトップを弾いていたのですが、これは彼にとって初めてかな? 木管はオーボエ杉原さん、フルート真鍋さん、クラ伊藤さん、ファゴット鈴木さん。このあたりは不動のメンバーで、立派なソロを披露。コントラファゴットは東京シティフィル首席の皆神さんが来てました。ペットのクリストフォーリさんのソロはさすが。ただ、ホルン丸山さんは不調?

私はマーラーの1番の実演にはかなり接して来ましたが、4番トロンボーンがホルンのアシで入るということに今まで気づいたことはありませんでした。第四楽章の最後の3分くらいしか出番はないのですれど。この日、トロンボーンの伊波さん(とても面白いおじさんなのですが)がホルンの隣にじーっと座っておられたので、ああ、そうなんだと知りました。他の演奏の場合には、第四楽章からのみ参加しているんでしょうかね。今までなぜ気づかなかったのだろうと不思議に思う次第です。

今年3回めの演奏会。日フィル、頑張ってました。よかったです。

この記事を書いた人

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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