ちむどんどんする(!?)アンサンブル:アンサンブル・パストラーレ第二回演奏会

昨年12月に活動を開始した、アンサンブル・パストラーレ。木管五重奏+弦五部という編成で、オーケストラ曲を演奏するという、非常にユニークな団体です。第1回はモーツアルトの交響曲第1番とベートーヴェンの交響曲第1番をメインにした演奏会(感想文はこちら)でしたが、今後は毎回ひとりの作曲家にフォーカスするということで、今回はシューベルト。ちなみに次回はメンデルスゾーン、その次はブラームスとのことです。

弦楽器以外は木管五重奏ですから、主だったところで言えば、トランペット、トロンボーン、そしてティンパニが入りません。となると必然的に編曲しなければならないわけですが、そこもまたこのアンサンブルを聴く楽しみの一つでもあります。

さて曲目はというと、前半に弦楽五重奏曲「ます」第四楽章の十重奏曲版、そして交響曲第8番「未完成」。後半は交響曲第5番。

弦楽五重奏曲「ます」第四楽章(十重奏曲版)

言わずと知れた大名曲ですが、管楽器が加わるとやはり印象が違ってきますね。躍動感が増すのかな。流れに陽光が差して、鱗がキラキラ、という感じでした。

交響曲第8番「未完成」

7番か8番かという話はさておき(今回のプログラムでは「7番」でしたね。)、本来的にはちょっと「怖い曲」であると私は思っています。8番と5番を並べるプログラムは、その昔、カール・ベームが好んでいたものです。天国的な明るさの5番と、陰惨とも言える8番を対比させる趣向。シューベルトに於ける光と影の対比は、残酷なほどですものね。

通常のオケに比べると弦楽器はざっくり平均して8分の1程度の編成になるので、当然ながら管楽器がはっきり聴こえます。こうすると、いろいろ聴こえてきて面白い。

第一楽章冒頭のオーボエとクラリネットがユニゾンで奏でる旋律は、民俗楽器タロガトーを模したものと言われていますが、荒川さんとべヴェさんが本当にピッタリ合わせていたので、今回初めて、一つの楽器のように聴くことができました。素晴らしい。

交響曲第5番

この曲に関しては、とにかく明るい曲、という印象を抱いていました。が、今回の演奏は、違った一面に光を当てたという趣きがありました。

この編成だと弦楽器はかなり頑張って弾かなければならないのですが、その結果としてダイナミックな感じが生まれたのは予想外、というか嬉しい驚き。快速テンポであったことも奏功していました。

古楽器による演奏から来る、ちょっと尖ったダイナミズムとは違います。豊かなダイナミズムとも言うべきか。今までの私の5番に対するイメージが、良い意味で裏切られました。この演奏を聴いただけでも、足を運んだ甲斐がありました。

アンコール

ここで一般公募された学生さんたち8名(管楽器のみ)が参加して、シューベルトのセレナーデと、「野薔薇」が演奏されました。コロナ禍で演奏の機会を奪われた中高生を勇気づけるための試みということでしたが、これはいいですね。遠くは九州から来られた学生さんもおられたとのことですが、一生の思い出ですね。羨ましい。

アンサンブルについて

メンバーは、敬称略で、フルート下払、オーボエ荒川、ファゴット廣幡、ホルン加藤、クラリネットはベヴェラリ。東フィル若手の精鋭プラス東響ですね。弦はコンマス三浦、第二Vn奥野、ヴィオラ山本、チェロ小畠、コントラバス岡本。特筆すべきは、先日、還暦記念コンサートで「え?還暦?」と言うパワーを発揮された三浦さんが参加されていること。年齢的には、息子、娘世代との協演ということになりました。

私自身がファゴットを吹くので、どうしても管楽器に偏ってしまうのですけれど、以下、思いつくままに感想を。

下払さんのフルート・ソロに実演で接するのは今回がはじめて。透明感のある素晴らしい音。「ます」で、循環呼吸かと思わせるくらいに長いブレスで吹くところがあったのですが、一貫して美しく吹き抜いたのはお見事でした。

文吉さんの音色はウィーンものに合うような気がします。あと、常に「歌」があるのが素晴らしい。

べヴェさんは大変な名手であるわけですが、いつも感心させられるのは、旺盛な表現意欲。超絶技巧というものは、それ自体を誇示するためのものではなくて、表現の幅と深さを広げるためにあるのだということを思わされます。

加藤さんのホルンの柔軟性にも、いつも感心します。原曲での金管楽器群の役割を全て担うような役回りである訳ですが、楽しげに吹きこなすのは立派。

廣幡さんのファゴットは、実に伸びやかで、豊かな「いい音」。5番の第二楽章でチェロとともにアンサンブルを支える局面があるのですけれど、まあ、惚れ惚れする音で吹いておられました。素晴らしいファゴットです。

三浦コンマス、さすがでした。慈父のように、そして厳父のように、これぞコンマスというリードには圧倒されました。

第二バイオリン奥野さん、ヴィオラ山本さん、チェロ小畠さん、よかったです。こうあっさり書いてしまうのは、私が弦楽器を描写するヴォキャブラリーを持っていないから。でも、うしろの席の女性が楽章の合間に呟いてました。「チェロ、すごくいい。」

第一回から続けて参加のコントラバスの岡本さん、本当に見事。運動性があり、かつ音楽的なバスがあってこそ、古典音楽は成り立つのだと改めて思わされます。ソロ・リサイタルが予定されているとのことで、ぜひ聴きに行きたいのですが、場所が那須塩原とのこと。うーむ…

いやいや、素晴らしい演奏会でした。こういう演奏会はワクワクしますよね。「ちむどんどんする」って言うのでしたっけ。とてもよかったです。

この記事を書いた人

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元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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