第二節婿養子の是非〜後半:婿養子への承継を成功させるために(その1)

私は基本的には男性であれ女性であれ、先ずは第一子を後継者として定めるべきという立場です。とはいえ、お子さんが女性ばかりである場合、迷っているうちに時間が経過し、後継者として長女の夫に期待せざるを得ないという話は実際にはよく聞くところです。

理想論はともかくとして、現実論として婿後継者への承継を成功させるためにはどうしたらよいのでしょうか。「譲る人」と「継ぐ人」それぞれの立場から、成功への秘訣を考えてみましょう。

譲る人の立場から

見極める

まずは、そもそもお婿さんが後継者にふさわしいのかを見極めるところから始めることになります。もっと正確に言えば、後継者候補として入社させるのにふさわしいかどうかを吟味しなければなりません。

常識的には、見極める基準として、学歴、実務経験といったところが頭に浮かびます。しかし、これらはいわゆる「nice-to-have」であるにすぎません。つまり、あればあるにこしたことはないけれど、必須ではありません。

学歴が「立派」であれば、社員から尊敬を得られるかもしれません。しかし、期待が裏切られた場合のダメージは甚大です。実務経験に関しても、いわゆる「ではの神」(ことあるごとに「前の会社では〜」と語ってしまう場合)になってしまっては、総スカンを受けることになりかねません。

見極めるべきは、「意欲」と「覚悟」です。この二つは「must」です。あとは「譲る人」がサポートすれば、なんとかなるものです。

「意欲」

ここでいう「意欲」とは、「とにかくやってみたい」という強い気持ちです。「良い機会だからやってみようか」程度の軽いものではありません。ただ、その一方で、「この会社を救いたい」といったような、崇高なものである必要はありません。「自己実現の得難いチャンスだ」でも構いません。大事なのは熱量です。

実際、私が存じ上げている婿後継者の方々が手を挙げた理由のほとんどは、「自分の能力を試してみたい」という自分中心の動機でした。最初はそれでよいのです。事業を承継し、経営者として成長していくにつれて、「事業のため」そして「社員のため」へと動機がシフトしていくものです。

「覚悟」

「意欲」の熱量と「覚悟」の間には正の相関関係がありますが、この二つは似て非なるものです。「覚悟」は腹を括ること。つまり、何があっても投げ出さないと心に決めることです。

出来上がっている会社にいきなり後継者候補として入るのですから、周囲からの圧力は相当なものです。そして「譲る人」からの圧力も。「意欲」の炎が消えそうになったとき、支えるのは「覚悟」です。

育てる

婿後継者だからといって、特別な育て方があるわけではありません。後継者の育て方については第二章で詳述する予定でですので、ここではポイントのみご説明します。「譲る人」が気をつけるべき大事なポイントは二つです。

あえて、特別扱いする

世の中では、婿養子といえども一兵卒としてスタートさせることを美談として捉える向きがあるかと思います。たしかに現場経験を積ませることは大切なのですが、一兵卒から自力で這い上がってくることを求めるのは酷ですし、そもそもそんな時間の余裕は無いはずです。

年数を限って(最長でも2年程度)現場経験を積ませます。ここでの目的は社業についての知識を得させるということと、周囲から「一目置かれる」ようになってもらうこと。したがって、部署を選ばなければなりません。あまり楽なところではダメなのです。婿後継者には、その意図をきちんと説明した上で、死ぬ気で頑張ってもらわなければなりません。そのためにも、年数を限っておく必要があるのです。(期限を切らずに「死ぬ気で頑張れ」と言われれば、心が折れてしまいますよね。)

その後は会社全体を見回すことのできるポジションに置くべきです。典型的には経営企画、あるいは社長室。「譲る人」にとっては、あらためて娘婿の経営適性を吟味する機会となります。婿後継者としては、事業モデルを深く理解する好機となります。

成功体験を得させる

できるだけ早くに、いわゆる「スモール・サクセス」を得させなければなりません。婿後継者に自信を持ってもらうためでもありますが、何よりも社内で後継者として認めてもらうことが目的です。

いきなり難題に取り組ませるのは得策ではありません。まずは本業からみれば周辺にあたる領域で課題を与え、成功させるのが良いでしょう。

最初は難易度の低い課題でかまいません。大事なのは成功を味わってもらうことですから。周辺領域の部署では人材が薄い場合が多いので、後継者がリーダーシップを確立するのは比較的容易な筈です。(本業の中核部署だと、そうは行きません。)そして、段々と課題を大きくし、時期を見計らって本業の中核部門に投入します。

合格証書として株式を移転する

婿後継者に株式を持たせるかどうかは微妙な問題です。義父である「譲る人」からすれば、万が一、離婚する可能性を考慮に入れておかなければならないからです。現実問題として、成功している婿経営者であっても、保有株式比率は案外低いというケースは少なくありません。

ファミリービジネスの場合、この点に関しては仕方ないかと思います。ただ、「譲る人」が保有している株式を象徴的に活用する方策があります。

多くの場合、相続税を念頭に置いて娘さんへの株式移転は進んでいることと思います。その株式を婿後継者に移転するのはもちろん得策ではありません。そうではなくて、「譲る人」が保有している株式を、少しずつでもよいので、婿後継者が課題をクリアした時に与えていくのです。課題を克服したことに対しての合格証書、といった位置付けで。これは婿後継者のモチベーションに配慮した象徴的な通過儀礼ともいうべきものですので、ドカンと移転する必要はありません。

ここまで「譲る人」が留意すべき点についてご説明しました。次回は、同じコインの裏側というべきか、「継ぐ人」つまり婿養子はどのような点に気をつけ、どのように振る舞うべきなのかをご説明いたします。できれば連休明けくらいにご案内できればと思います。お楽しみに。

この記事を書いた人

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して15周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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