第九、 Reborn 〜沖澤のどか指揮、京都市交響楽団

「いままで一番多く実演に接した曲はなんですか?」と尋ねられたらどうします? ある程度長いキャリアを重ねた好楽家の場合、その答えはひょっとして「第九」なのではないでしょうか。日本のプロオケで年末に第九をやらないところは珍しいですよね。今年の年末だと、オーケストラアンサンブル金沢くらいでしょうか。(来年の6月には演奏されるとのことですが。)

マタチッチ、サヴァリッシュ、シュタインといった巨匠の伝統的な名演から、ノットのような尖った演奏に至るまで、さまざまな第九を聴いてきました。その結果、良くも悪くも「耳年増」になってしまい、ハッとさせられることが減ってきたというのが正直なところなのですが、今回の沖澤さん/京都市響の演奏はその例外となるものでした。

私が聴いたのは2日公演のうちの初日、12月27日土曜日の演奏。2日ともに完売です。

第一楽章。出だしは快速テンポ。でも音量はグッと落として。木管が音を伸ばしているところでは、2番奏者の低い音を等しいウェイトで鳴らす。これで通常の演奏よりも陰影が強まる。リピートを励行しているので、第一楽章が長く感じられ、快速テンポであるにもかかわらず、曲全体がじっくり創造される印象を私は受けました。

第二楽章。ここでもキビキビしたテンポで進むが、合いの手のように寄り添う木管がとてもよく聴こえる。私の席(三階最前列)からの遠望なので確言はできないけれど、ニュアンスの指示がはっきり出ているように見えました。引き締まったリズムともに、非常に緻密な音楽であったように思います。

今回、合唱は最初からステージに乗っているのですが、ソリストは第二、第三楽章間で入場。以前のブロムシュテット指揮のN響では、バリトンが「おお友よ、この響きではなく」と歌い出す以上、ソリストも最初から乗っていないとおかしいというマエストロの意見でソリストが第一楽章からステージ上にいたことを思い出しました。今回面白いなと思ったのは、ピッコロもここで入場したこと。

第三楽章。私は個人的に「第九」の勝負はこの楽章で決まると考えています。珍しくも二番ファゴットで開始されるこの楽章、ふだんソロを受け持たない二番ファゴット奏者には絶大なプレッシャーがかかる局面ですが、豊かな良い音でした。今回の沖澤さんの第九の全曲を通じて感じられたのは、木管アンサンブルの精妙さ。各奏者がお互いにとてもよく聴き合っていることが歴然。互いに聴き合うのはプロである以上当然なのですが、今回はそれを二乗するくらいの注意力で演奏されていたように感じました。ここまでの精妙さは、私は今までに聴いたことがありません。

第四楽章。ほぼアタッカで開始。あの旋律では、チェロから豊かで深い響き。続くファゴットの美しい旋律は、通常どおり2本で。秋山先生はここは1本で吹かせておられたのですよね。合唱はアマチュアなのですが、健闘しておられたと思います。気持ちが伝わってくる歌唱でした。ソリストについては、私は声楽がよくわからないので大したことは言えませんが、ドイツ語の発音をきちんとした方が良いのではと感じる部分がありました。フィナーレの盛り上がりは感動的でした。これぞ第九、という感じ。大喝采だったのですが、三階席からのブラボーは一拍早すぎましたね。

沖澤さんにとって初めての第九ということなので、二日目にはより意図が鮮明になるでしょうね。松井楽団長がFBで言われていたように、これは二日通しで聴くべきでしょうね。私はファゴット吹きなので、初日にファゴットの後ろあたりのP席で指揮者の指示を確認しながら聴き、二日目には三階最前列で聴ければ理想的と思いました。

沖澤マエストラの卓越した音楽性、そして京都市響の演奏能力の高まりを体感することができた、素晴らしい演奏会でした。ありがとうございました。

(写真は京都市響の投稿から拝借しました。)

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元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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