蓄音機は蓄魂機でもあるのだなと思った夕べ

先々週の土曜日(8月22日)下前國弘さんの「京都語り」を堪能した後、同じ会場で蓄音器を楽しむ会があり、続けて参加しました。主催団体の創発フォーラムは政治関連で鋭い企画を連発する一方で、文化面でも粋な企画を世に問うておられます。政治と文化は国家の両輪ですから、この姿勢には賛成です。

さて、この企画の講師は三浦武さん。SPレコードと蓄音機の愛好家で、とりわけヴァイオリン奏者の系譜に深い造詣をお持ちの方です。この日も愛機HMV157と、選りすぐりのコレクションをご持参の上、私たちを深い感動へと誘ってくださいました。

この日のプログラムはこんな感じ。

伝説のソリストであり、偉大な教師であったヨーゼフ・ヨアヒムと、その門下を追っていくという企画です。

いずれも凄かったのですが、私が心底参ったのはヨアヒムとヴォルフスタール。

ヨーゼフ・ヨアヒム

言わずと知れたブラームスの盟友で、ヴァイオリン協奏曲は彼に献呈されました。もちろん初演者です。そして、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲でも、「ヨアヒムのカデンツァ」で有名。

没年が1907年(日露戦争が終わって2年後)であるため、まさか音源が残っているとは思わなかったのですが、あるんですね。びっくりしました。

太い、深い音でした。ブラームスがこの音を念頭に置いて、あのヴァイオリン協奏曲をつくったのだなということが、非常に納得できる音でした。

ヨーゼフ・ヴォルフスタール

ヨアヒムの弟子であるカール・フレッシュに学んだので、ヨアヒムの孫弟子ということになります。ヴォルフスタールの弟子の一人は貴志康一。

32歳で夭折した彼が弾くベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲のカデンツアは、思わず椅子から身を乗り出すほど素晴らしいものでした。基本的にはヨアヒムのカデンツア。そんなに手を加えるというわけでもなく、技巧をひけらかすというわけでもなく、ただただ圧倒的にベートーヴェンであるという演奏。いままでに聴いた実演・録音の中でも最も心を打たれるものでした。

全曲演奏の中からカデンツアだけ聴かせていただいたのですが、指揮はマンフレート・グルリットとのこと。このひとも日本との関係は深いですよね。カデンツア終了部分でオケのファゴットとホルンが聴こえるのですが、もしやと思って三浦先生にお伺いしてみたら、やはりベルリン国立歌劇場管弦楽団でした。深い、ドイツの音。

この演奏がCD化されていることを知り、頑張って探してみましたがダメでした。痛恨です。

三浦先生について

私と一つ違いで、本業は河合塾の現代国語の看板である方。教え子の方が書かれた敬愛の情溢れるブログを見つけました。

三浦先生の会は鎌倉に続いて2回目だったのですが、なんというんでしょうか、これは一種の降霊会なのだなと。古い録音を聴くというよりも、往年の巨匠の魂と交感する趣があるのです。蓄音機は、蓄魂機でもあるのだなと感じました。次の機会が待ち遠しい。

この記事を書いた人

元永 徹司

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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