コロナ禍がようやく落ち着いてきて、海外からポツポツと優れた音楽家が訪れてくれるようになってきたのは朗報。東響の指揮台には、実に久しぶりにクシシュトフ・ウルバンスキ。ヴァイオリンと声楽のソリストの来日がかなわなかったにもかかわらず、意欲的なプログラムを変更しなかったウルバンスキには感謝です。
曲目は前半がウルバンスキの「お国もの」であるシマノフスキのヴァイオリン協奏曲第1番。後半はオルフのカルミナ・ブラーナ
シマノフスキ:ヴァイオリン協奏曲第1番
私はこの曲、実演では初めて。ソリストは弓新さん。代役としての登場だったのですが、テクニックが卓越しているだけでなく音色がこの曲にぴったりで、実に素晴らしい演奏でした。さすがに譜面は置いていましたが、この曲を見事に消化していて、まるで彼のために書かれた曲のよう。(翌日の川崎では暗譜で弾いたとのこと。)
ウルバンスキの伴奏指揮も見事。なにしろ耳の良い人なので、ヴァイオリンのソロはもちろん、オケの各声部もクリアに聞こえます。協奏曲の指揮は、こうでないとね。
本来であれば Bravo ! が降り注いだであろう演奏でした。アンコールはなし。まあ、あれだけ弾いてくださったのですから、文句はありません。ただ、私はこの人のバッハをいずれ聴いてみたいと思いました。
オルフ:カルミナ・ブラーナ
この曲を初めて実演で聴いたのは、ブロムシュテット/N響。ティンパニーが客演主席のゾンダーマンで、その見事さに圧倒されたことを覚えています。1990年のことでした。以来、CDではたくさん聴いているけれど、実演では久しぶり。やはり歌手がネックになるんでしょうかね。
今回はこの曲を得意としているソリストが来日できなくなり、正直言って心配したのですけれど、代役の盛田さん(ソプラノ)、町さん(バリトン)が大健闘。あと、特筆すべきは新国立劇場合唱団。このオペラティックな曲で、さすがの合唱を聴かせてくれました。わが友人であるバスの唐さんの姿を久しぶりに見れたのもよかった。
しかし、なんといっても圧巻だったのはウルバンスキの指揮。この曲は冒頭から生命エネルギーが爆発するわけですが、それでも実に明晰な響きで、歪むことがないのです。今回、合唱の人数を絞ったため(48人)、バランスが難しかったと思うのですけれど、終始、ソリストも合唱も、そしてオケのソロパートもクリアに聴こえました。さすが、ウルバンスキ。しかも暗譜で振ってるんですよね。
第1曲の Sors immanis et inanis のところでファゴットがほんの少しだけ遅れて聴こえていたのですが、サントリーホールの方がミューザよりも合唱が遠いので、それを埋めるべく合唱が少し走ったのかなと感じました。終曲の同じ部分では問題なし。
バリトンの町さんは、ここはさすがにスペシャリストの歌を聴いてみたいと思わせるところ(第11曲)もあったけれど、よくぞここまで、と感心させる出来栄え。カウンターテナーの弥勒さんは、演技も秀逸。ソプラノの盛田さん、第23曲は絶唱でした。
結構いろいろな仕掛けもあって、合唱団がスイングしてみせたり、バリトンが酔っ払う演技をしたり、居酒屋の歌でオケも歌ったり。クオリティが高いだけでなく、楽しませてくれる演奏会でもありました。
オーケストラについて
木管は敬称略で、フルート相澤、オーボエ荒、ファゴット福士、クラリネットはヌヴー。みなさん素晴らしかったけれど、福士さんはとくに Brava でした。終演後、ウルバンスキが最初に立たせたのも彼女。
コンマスは水谷さん。ウルバンスキが安心して合唱の面倒をみていられるのは、水谷さんが全身全霊でオケを引っ張っているから。コンマスたるもの、かくあるべしという感がありました。さすがでした。