服部百音さん、畏るべし:東京フィルハーモニー交響楽団 第137回オペラシティ定期

今日(10月22日)の夕方、都内某所でのSP蓄音機試演会の末席に加えていただいたあと、慌ただしく初台に移動して東フィルのコンサート。プシホダ、ロゼー、デヴィートといった歴史的な名手たちの魂に触れた後、ライブでヴァイオリンを聴くのはどうかなあと憂慮して臨んだのですが、服部百音さん、凄かった。弱冠21歳、掛け値無しの「大器」です。

曲目は前半がベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲。ソロは服部百音さん。後半は同じくベートーヴェンの交響曲第5番。指揮はチョン・ミュンフンの息子さんの、チョン・ミン。

ほんとうは、お父さんが振るはずのプログラムの時期がずれて、息子さんが代役という形になりました。ちなみにコロナ禍による外国人演奏家の来日がストップする中で、チョンさんが我が国での初の外国人指揮者の登壇です。(2番目は明日のカーチュン・ウォン@九州交響楽団)

ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲

とにかく服部百音さんが凄かった。今までこの人の演奏を聴いていなかったことを痛切に後悔しました。あの庄司紗矢香に迫る存在になると思います。「モノが違う」ということですね。

私はミハイル・プレトニョフがまだ若かりし頃、ラフマニノフの「パガニーニの主題による変奏曲」を聴いて驚嘆したことがあるのですけれど、そのときと同じレベルの驚きと感動。

豊かな音というよりも、蒼く燃える氷の刃、という感じ。最弱音からのダイナミクスが広くて、ニュアンスの変化を使い分ける積極果敢な攻めの演奏。でも、とにかく美しい。

実質的には彼女の「弾き振り」でした。オケも、ピタッとつけて素晴らしい。指揮者は出を指示するくらいしか仕事無し? ニュアンスは服部さんが付けてましたね。

そして恐ろしく技巧的なカデンツア。ヨアヒムでもなく、クライスラーでもなく  休憩時に事務局の方にお伺いしたら、なんと服部さんの自作カデンツアだそうです。なんという才能でしょう!

アンコールはイザイの無伴奏。これも凄かった。この人のシベリウスを聴きたくなりました。

まあ、とにかく服部さんにノックアウトされました。これからが楽しみですね。

ベートーヴェン:交響曲第5番

いまから10年くらい前かな? チョン・ミュンフンさんが小学生のオケを振って「運命」を演奏するというNHKの番組がありました。小学生オケといってもみんな上手で、しかも全員暗譜(!)という気合の入った子供たち。その子たちを相手にチョンさんが力説していたのが、音符の音価をしっかりと、弓を長く使って弾くということ。「音符をスコップで掘りおこすんだ」という喩えに、子供たちが当惑を隠せなかったのが印象に残っているんですが  今宵の息子さんの指揮を見ていて、その番組を思い出しました。冒頭のダ・ダ・ダ・ダーンの後のフェルマータの長いこと!それに続く休符もほんの一瞬です。(それにしても、あの子供たちは今どうしているんでしょうね。)

総じて、縦の線をはっきりさせるというよりも、横の旋律を流線的に弾かせて、それを重ねていくという感じなんですよね。さすがにこの曲に関してはオケも慣れているので、しっかり振らないでも大丈夫。 とはいえ、アッチェレランドして縦が合わなくなったところはありましたが。

金管(ホルン隊が絶好調!)を結構吹かせていましたし、木管、とりわけオーボエ(荒川さん)、ファゴット(広幡さん)が上手いので、よく聴こえます。なんだかとても楽観的な、明るい「運命」でした。フルトヴェングラーとか、クレンペラーの世界とは別物です。いや、明るいのがいけないというわけではないですよ。

大盛り上がりでフィナーレ。大拍手でした。

ただ、この演奏だけではチョンさんの力量はわかりませんでした。好きか、と問われると、うーん、現時点ではニュートラルですね。

オケについて

オーボエの荒川文吉さん、ファゴットの広幡敦子さん、ともに素晴らしい。荒川さんは、その昔、ドイツから帰ってきたばかりの北島章さんを思い出させるような綺麗な音。「運命」第一楽章の大ソロはお見事の一言。そして、私はいつも感心しているのですけれど、広幡さんのファゴットは、ほんとうに「良い音」。豊かで、よく伸びるんですよね。ピアノになっても神経質にならないところも素晴らしい。

ホルン隊は開演前に4人で「魔弾の射手」の「狩人の合唱」を聴かせてくださったのですが、良かったです。今宵、ホルン隊は絶好調でした。ヴァイオリン協奏曲の第3楽章のソロとか、なんといっても運命の第3楽章とか。

ただ、ちょっと苦言を

このコンサート、インターネットのみでの販売だったのですが、なんと座席指定ができませんでした。つまり、事務局にお任せということですね。S席1万円という値付けで、これはないでしょう。私は幸いにも良席でしたが。

理事長が楽天のトップなのに、この体たらくは洒落になりません。改善を望みます。(あ、楽天ポイントとかは付けてくれないでいいですよ。)

この記事を書いた人

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元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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