聴き納めも聴き初めも第九:東京ユヴェントス・フィルハーモニー 第20回記念定期演奏会

このところ毎年の聴き初めは東京ユヴェントス・フィルハーモニーの演奏会。今回は第20回という節目にあたることと、そして今年がベートーヴェンの250周年であることから、なんと第九が選曲されました。会場が川崎大師にほど近いということもあり、破魔矢を抱えた人が交錯する喧騒をかき分けて、ミューザ川崎へ。

東京ユヴェントスは慶應のワグネルを母体として、若手指揮者である坂入健司郎さんが中心となって結成されたアマオケ。このコンビの演奏に私が初めて接したのは2015年のことで、それはブルックナーの交響曲第5番のCDでした。慶應のドイツ語の先生であり、音楽評論家でもある許光俊さんが激賞していたこともあって半信半疑で購入したのですが、これが素晴らしかった。アマオケではありますが、この曲の名盤のひとつに数えてよいかと思います。

これは実演を聴かなければということで馳せ参じたのが翌2016年1月のブルックナー8番の演奏会。Twitter で、「東京のブルヲタ(ブルックナーを愛するオタクのこと)が集結した」と評されたこの日の演奏は、ほんとうに傑出したものでした。以来、可能な限り聴きに行くようにしています。そして世の中は狭いもので、このオケでは畏友亀井さんの奥様、お嬢様がヴァイオリンを弾かれているだけでなく、ファミリービジネス研究所での理事仲間の大澤さんのお嬢様もチェロで参加されているということが判明し、私にとって特別に親しみを感じる団体となっています。

指揮者の坂入さんは慶應高校→慶應ワグネルと歩んだ人で、音楽大学出の「専門家」ではありません。だけど、それが何だと言うのでしょう。今をときめくクリスティアン・ティーレマンだって、音大を出たわけではありません。私の見るところ(聴くところ?)、坂入さんは現在の日本で最も有望な若手指揮者です。彼のブルックナー、あるいはマーラーを聴くと、往年の巨匠的なものを連想することがありますが、それはしかし彼がエピゴーネンであることを意味するものではありません。なんというか、彼の中にはとても豊かな音楽があることを、私たちは感じるのです。私は今後の彼の成長を聴衆として味わいながら歳を重ねていくことを楽しみにしています。

さて今日の曲目は前半がブルックナーのテ・デウム。後半がベートーヴェンの第九。これは重いプログラム。合唱はやはりアマチュアの東京ユヴェントス・フィルハーモニー合唱団。

ブルックナー:テ・デウム

熱心なカトリック信者であり、教会オルガニストでもあったブルックナーによる、文字通り神を賛美する壮大な曲。演奏頻度はそんなに多くはありません。日本だと宗教的な機会に演奏されることもありませんから、なおさらですね。

さらに言えば、この曲は案外設計が難しいのではと私は思っています。情熱的に歌い通せば平板になりますし、かといって山や谷を作るのも難しいという…   私見では、この曲はバッハのマニフィカトやクリスマス・オラトリオと同様に、信仰告白として「歌う」べき曲ではないかと。ただ「聴く」のではなくて。そう言ってしまうと身も蓋も無いわけですが。

でも今日の演奏は素晴らしかった。とても適切なテンポ設定。これは坂入さんの功績。そしてソリストの歌唱が非常に優れたものでした。中江早希(ソプラノ)、谷地畝晶子(アルト)、宮里直樹(テノール)、大沼徹(バリトン)のアンサンブルはほんとうに綺麗。テノールは声量十分。すでに実績のある方のようですが、これからますます期待できますね。

 

ベートーヴェン:交響曲第九番「合唱付き」

前半でトップを吹いた木管奏者が2番、あるいは3番に下がって交代。さすがに吹き通すのはしんどいですものね。

さて坂入さんの第九。この曲を特別なものとしてことさらに巨大な音楽像を構築しようとするのではく、あくまでもずっと続けてきたツィクルスの最終到達点として位置付けた演奏であると私は受け止めました。この指揮者とこのオケの、等身大の第九というべきか。そして演奏意欲の溢れた、とてもよい演奏であったと思います。あと、このひとのテンポ感は素晴らしいですね。

ただ、うまいがゆえに難しいのかな、と思ったことがひとつ。とりわけ木管の前列にいえることですけれど、よく知っている&聴いている曲なので、どうしても歌いたいように歌ってしまいます。ここがクセモノで、そうなるとプロと比べるとさすがに引き出しが少ないので、その歌が単調に聞こえてしまうのですよね。(あくまでも個人の感想なので、関係者の方、お気を悪くなさらずに。)普通のアマオケであれば、こんなことを感じるレベルには到達できませんから、痛し痒しといったところなのでしょうけれど。

ここでもテノール、最高でした。東響のサイモン・オニールも、これくらいのテンポで歌わせてもらったならば実力を発揮できたのに…

そうそう、プログラムにあった第九の歌詞の訳は、許光俊さんによるものでした。これがなんとも偽悪者的なもの。バリトンの歌い出しの場面はというと:

おーい、ダチ公よ、こんな音楽じゃないぞ!

もっときもちいいヤツを歌おうぜ、

もっと嬉しくなっちゃうようなヤツをさ!

シャレなんでしょうけど、あんまり趣味が良いとはいえないかな。

終演後、大拍手とブラヴォー。 今年の聴き初めにふさわしい、素晴らしい演奏会でした。

この記事を書いた人

元永 徹司

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

詳しいプロフィールはこちら