コンサートに通う楽しみのひとつは、新しい才能の輝きに触れること。金川真弓さん。驚愕のレベルでした。
この日(2月11日)のコンサートは、オール・ベートーヴェン・プログラム。ちょっと普通と違うのは、冒頭の曲。なんと、「ウェリントンの勝利」です。大砲や銃を効果音として用いる、いわばチャイコフスキーの「序曲1812年」の先駆とも言える作品。古くからカラヤンの録音は存在していたものの、実際にコンサートで演奏されることは滅多にありません。私も実演に接するのは初めて。
二曲めはヴァイオリン協奏曲。ソリストは金川真弓さん。休憩を挟んで、後半は交響曲第8番。指揮は川瀬賢太郎さん。
「ウェリントンの勝利」
両翼(RA、LA席の後ろあたり)にトランペットとスネアドラムのバンダ(別働隊)が展開する派手な曲。まあ騒がしい曲であるわけですが、途中での管の重ね方とかはさすがベートーヴェンと思わせるものがありました。壮麗な響きではありましたが、ホールがワンワン反響してしまう局面があり、指揮者にもう一工夫あっても良いのではと私は思いました。面白い曲でしたけど。
ヴァイオリン協奏曲
間違いなく、この日の白眉。金川真弓さん、凄い。腕が立つというだけではなく、構成力が素晴らしい。そして、豊かな、深い音色(グァルネリ使用とのこと)。これはドイツの音です。私は聴いていて、2006年の庄司紗矢香さんのブラームス(アラン=タケシ・ギルバート指揮NDR響)を思い出しました。金川さん、掛け値無しの「大器」と言えるかと。
この日のカデンツアは、ベートーヴェン自身がこの曲をピアノ協奏曲に編曲した時に作ったカデンツアを、ヴォルフガング・シュナイダーハーンが編曲したもの。ティンパニが参加するのが面白い。昨年の夏に久石讓さんが編曲したもの(こちらはさらにチェロまで参加)を豊嶋さんが 弾いたものを聴きましたが、私はシュナイダーハーンに軍配を上げます。金川さん、目が覚めるような技巧を披露。
四方コンミスをはじめとする都響も、万全のサポート。指揮者がいなくても大丈夫だったのではないでしょうか。
アンコールはありませんでした。まあ、あれだけ聴かせてもらったのですから、文句はありません。
交響曲第8番
快速テンポでの元気の良い演奏。メリハリを付けたいという指揮者の意図はわかるけど、その手の内がアケスケなので、却って単調に聴こえてしまうという問題があったように思います。この曲はもっと面白く演奏できる筈。(あくまでも個人の感想です。)
オケについて
都響は本当にうまいです。盤石のアンサンブル。オーボエの広田さん、クラリネットのサトーさん、いつもながらの美技。ただ、この日私が感嘆したのは、ファゴットの長さん。フランス留学から帰ってきて、この日が初乗りだったのではないでしょうか。もともとうまい人なのですけれど、表現力が一層向上したという印象を受けました。リヨンに行かれたということは、先生はカルロ・コロンボかな? これからが楽しみですね。
指揮者について
川瀬さんは神奈川フィルで意欲的なプログラムを組み、私も注目。ただ、巡り合わせが悪くて実演はこの日が初めて。この日の演奏に関する限り、ピンと来るものは感じられませんでした。次の機会に持ち越しということで。