吹奏楽の幅広い土台があるためか、最近の日本の木管楽器奏者の技量の向上には目を見張るものがあります。みんな、ほんとうに上手いのです。私はファゴットをやっていたので、オーボエとファゴット(いわゆるダブルリード族)についてとりわけ注意深く聴いているつもりですが、ここでも「アラサー」の年代の人たちは素晴らしい。とくに女子。
東フィルの若き首席奏者である広幡敦子さんが室内楽のリサイタルを開くというので、聴きに行きました。場所は初台のカフェ。17日にトリフォニーの小ホールで予定されている演奏会の、前哨戦という位置付けでしょうか。
演奏者はファゴットが広幡敦子さん。オーボエは上原朋子さん。インデミュアーレのお弟子さん。ピアノは松井萌さん。広幡さんと松井さんが藝大同期。上原さんは広幡さんの後輩で、寮が一緒。上原さんと松井さんはカールスルーエ留学で一緒、という関係だそうです。
このチラシの写真をご覧いただくと、綺麗なお嬢さんたちの演奏会、という趣きがありますが、どうしてどうして、三人とも、めちゃくちゃ上手いんです。
フランスもののプログラムでした。ジョリヴェ、サン=サーンス、プーランク。会場はカフェなので、奏者との距離は遠い人でも10メートルくらい。音響は理想的とは言い難いのですが、臨場感は圧倒的です。
ジョリヴェ:オーボエとファゴットのためのソナチネ
この曲、はじめて聴きました。まあファゴットの音域の広いこと。部外者(?)は楽しく聴くことができるのでしょうけれど、どちらかの楽器をやる人間にしてみれば、「おお!」という技巧を要求する曲。広幡さん、上原さんは何事もなかったように吹き切りましたけれど。ちゃんとディヴェルティメント的な洒脱な味わいも表現できていて、素晴らしかったです。
サン=サーンス:オーボエソナタ
これは大名曲。当然、多くの名手が吹いていて、私は実演だとフランソワ・ルルーとモーリス・ブールグで聴いたことがあります。どちらも、もちろん圧倒的でした。
この日の上原さんの演奏も、とても良かった。とにかく攻める、思い切りの良いオーボエ。個人的には、オーボエはこうでなくっちゃ!と思いました。
曲の前に上原さんの曲目紹介があったのですが、「オーボエ奏者として、ともに成長する曲」という表現には感心しました。このひとは賢いですね。
サン=サーンス:ファゴットソナタ
これもファゴット奏者のレパートリーとしては欠かせない大名曲。本来はバッソン(フランスのファゴット)を想定して書かれているのですが、私はファゴットで聴くのが好きです。その方が音楽に深みが出るような気がして。吹くのは大変なのでしょうけど。
ですので、私はこの曲でヴィヴラートを効かせて吹く演奏を好みません。広幡さんは、彼女の持ち味である伸びやかで豊かな音をフルに響かせての演奏。もちろん軽快な運動性も保たれていて、凄いなと思いました。
フランセ: オーボエとファゴット、ピアノのためのトリオ
ここで3人揃い踏み。この曲も難しいはずですが、そんなことを感じさせない軽妙洒脱な演奏になりました。技術というのは、こういうために使うものなんですね。
ピアノの松井さんも素晴らしい。技巧が安定しているのはもちろんなのですが、とても音楽的でした。同時に包容力も感じさせる芸風には感心しました。
プーランク:オーボエとファゴット、ピアノのためのトリオから、第一楽章
アンコール曲。これもよかったです。
素人ながらの感想
上原さん。なんと「男前」なオーボエなのでしょうか。いや、ほんとに素晴らしい。このあいだのチョンさんとのブラームスで絶賛された荒川文吉さん(東フィル首席)の同期とのことですが、彼よりも音が強いし、太い。私はこういうオーボエの音が好きです。この人の演奏は、ぜひオケの首席として聴きたい。いまオーボエの世界は世代交代が進んでいるので、どこかの在京オケにポストがありますようにと祈ります。
広幡さん。いつもながら伸びのある、素直な、豊かな音。 私はこういうファゴットで、フランスものを聴くのが念願だったので、とても嬉しく、ひたすら感心して聴きました。実に素晴らしい。これからも楽しみです。
松井さん。知的、かつ軽妙な演奏に脱帽。アップライトピアノなのに… できればこのプログラムは、プレイエルあたりで聴きたいと思いました。この人なら、軽やかに弾いてくださることでしょう。
1時間ちょっとのリサイタルだったのですが、とても充実していて、感謝でした。