大当たりだった「三度目の正直」:日本フィルハーモニー交響楽団第732回東京定期演奏会

沖澤のどかさんの名前を初めて聞いたのは、おそらく2018年。彼女が東京国際コンクールで優勝したときであったかと思います。そのあと2019年のブザンソン・コンクール優勝によって一躍有名になった彼女の指揮に接する機会は今までに2回あったはずでした。昨年6月の日フィル、今年1月の東響。いずれもコロナ禍でキャンセルになり、今回が私にとって「三度目の正直」となりました。

この日は、本来であればアレクサンダー・リープライヒが振る筈だったのですが、彼もコロナ禍で来日できなくなったため、沖澤さんが代役に。曲目は、前半がモーツアルトの魔笛の序曲、そしてベルクのヴァイオリン協奏曲。後半はメンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」から、交響曲第3番「スコットランド」に変更となりました。

モーツアルト:「魔笛」序曲

冒頭の和音に驚愕。こんな鳴らし方は聴いたことがありません。そのあとも新鮮な驚きが連続。アインザッツが揃っていないという twitter を見ましたが、そんな次元の話じゃないでしょう。あの和音だけで、並々ならぬ才能が示されて、言葉もありませぬ。

ベルク:ヴァイオリン協奏曲

ソリストは三浦文彰さん。沖澤さんの方がちょっとだけお姉さんですかね。ここでも、冒頭のクラリネット族の平行四辺形のようなところの響きには痺れました。とはいえ、コンチェルトですから、独自の解釈というよりも三浦さんにぴったり付けることが優先されていたように思います。それでも美しい演奏でした。

三浦さんは譜面を置いての演奏。良い演奏だったとは思いますが、圧倒的感銘には至らず。でもこれからが楽しみな人であることに間違いはありません。

メンデルスゾーン:交響曲第3番「スコットランド」

素晴らしい演奏でした。美しい風景画の画集を、いちページずつめくって見せてくれているような  沖澤さんがこの曲を自家薬籠中の物にしていることは歴然でした。ただそこで、オーケストラを引っ張るのではなく、オケに任せながら後ろから後押しするような印象。結果として実現していたのは、しかし沖澤さんが意図した姿であったのではないでしょうか。例えて言えば、牧羊犬のような指揮。

あと、これは客演首席ヴィオラの安達さんも tweet されていたことですが、沖澤さんの指揮の軌跡はとても美しい。ただ合わせるための指揮ではなく、流れを生み出す指揮かと。この人は素晴らしい。できる限り聴きたいと思わされました。

オケについて

コンマスは千葉さん。相変わらず冴えたリード。ヴィオラは安達さんとディヴィッドが並んで盤石の布陣。木管はいつものように(敬称略で)フルート真鍋、オーボエ杉原、クラリネット伊藤、ファゴット鈴木。このメンバーでのアンサンブルには文句なし。

そして、この日は長らく首席トランペットを務められていた橋本さんの最後の演奏会でした。マーラー5番の演奏歴50回以上って、凄すぎません? お疲れ様でした。客席からも万雷の拍手。

三度目の正直は大当たり。 素晴らしい演奏会でした。 いずれ沖澤さんで、ラヴェルとか聴きたいですね。

この記事を書いた人

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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