とんでもない才能との遭遇:読響第634回定期演奏会

定期演奏会はカウンター割烹の「おまかせ」のようなもので、時として全く期待していなかったにもかかわらず、素晴らしい才能に出会うことがあります。今回の演奏会でソリストをつとめたダニエル・ロザコヴィッチは、まさにそんなひとり。これは、とんでもない才能です。

曲目はまずワーグナーのリエンツィ序曲。そしてベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲。後半にはリヒャルト・シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語き」。指揮はセバスチャン・ヴァイグレ。

ワーグナー: リエンツィ序曲

ヴァイグレは手兵であるフランクフルト歌劇場でこの全曲を録音しているので、まぁ「お手のもの」という演奏でした。この手の曲の場合は、全曲を知り尽くした人が振ると、やはり味わいが違ってきますね。

ベートーヴェン: ヴァイオリン協奏曲

第一楽章の冒頭、ティンパニの刻みに乗って木管4本が出るところ。ここが単にピッタリだけでなく、しっとり美しく合うと、この曲が決まるように思います。この日はいつもの読響よりも(失礼!)、いい感じでした。ファゴットのみ客演で、東フィルをリタイアした大澤さんが吹いておられたのですけれど、Bravo でした。もちろん、第三楽章のヴァイオリンと絡むソロも。

しかし、本当に凄かったのはソリスト、ダニエル・ロザコヴィッチでした。若干22歳。私はこの人についてはノーマークで、まったく期待していなかったのですが、これは天才ですね。たいへんなテクニックの持ち主であることは言うまでもありませんが、音楽の説得力が凄い。将来の期待値という点では、クラウス・マケラの日本デビュー(w/ 都響)に匹敵する感銘を受けました。

こんな方。この写真だと身長がわかりにくいですが、結構大きいです。今後、大注目ですね。

リヒャルト・シュトラウス: ツァラトゥストラはかく語りき

ホルンの調子がイマイチだったことを除けば、たいへん立派な演奏でした。ただ、欲張ったことを言うと、何かが足りない。

この曲と「英雄の生涯」については、リヒャルト・シュトラウスのオペラを日常的に振っている指揮者と同じく日常的に演奏しているオケでないと、その真価が発揮されないように思います。ドレスデンやウィーンの演奏に接した時の、あの感じ。

今回、ヴァイグレは「日常的に振っている指揮者」であり、もともとは日常的に演奏しているオケの首席ホルン奏者であったので、読響の高度な演奏技術と相まって、だいぶ近づいたように思います。それでも、あと一歩は大きいかな、と。

いろいろと言いましたが、素晴らしい演奏会でした。感謝です。

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元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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