やはりモーツアルトは素晴らしい:東京フィル木管首席奏者によるモーツアルトの調べ

以前、日本を代表するコンサート・マスターの方にお話を伺った際、「オーケストラの演奏水準の向上が一番わかりやすいのは、管楽器の首席奏者が交代した時でしょうか」とおっしゃっておられました。対照的に、弦楽器だとセクション単位で取り組まないといけないので、時間がかかるという趣旨であったかと思います。(とはいえ、この方がコンマスだとオケの音は全然違ってしまうのですけれど

いま木管セクションでの世代交代が成功しつつあるオケのひとつは、東京フィル(以下、東フィル)です。広響からファゴットの広幡さんが移籍し、ベルリンフィル・アカデミーからオーボエの荒川さんが帰ってきて、フルートの神田さん、クラリネットのべヴェラリさんと並ぶと、これはかなり強力。

そんな4人がそれぞれモーツアルトの室内楽曲にトライする演奏会に出かけてきました。オペラシティの近江楽堂ですから、室内楽を楽しむには絶好の舞台です。(響きが豊かすぎるという声もありますが

曲目は全てモーツアルトで、ファゴットとチェロのソナタ(k292)、フルート四重奏曲第3番(k285k)、オーボエ四重奏曲(k370)、クラリネット五重奏曲(k581)。

ファゴットとチェロのソナタ(k292)

ファゴット吹き以外にはほとんど知られていませんが、私はこの曲、大好きです。そんなに超絶技巧というわけではなく、第二楽章などは私でも吹けるほどです。でも、ファゴットの魅力を十分に発揮できるあたりが、さすがはモーツアルト。モーツアルトはファゴットのソナタとしては、この1曲しか遺していないのが本当に残念。

広幡さん、素直で、豊かな、いかにもファゴットの音。素晴らしい。私はこういうファゴットの音が好きなんです。

チェロは有梨さんとおっしゃる綺麗な方でしたが、懐の深いチェロで、Brava でした。このひとの演奏はまた聴いてみたいですね。

フルート四重奏曲第3番(k285k

ヴァイオリンは山本さん、ヴィオラはデイヴィッドさん、チェロは有梨さん。

神田さんのフルートは良く響く、機能的な印象。いかにもオケの首席奏者ですね。とても良い演奏でした。惜しむらくは、ヴァイオリンがちょっと端正に過ぎたかもしれません。日フィルのパトロネージュ会員である私としては、わが日フィルのヴィオラ首席に昇格したデイヴィッドの演奏に接することができたのは喜びでした。彼、とっても良いんですよ。

オーボエ四重奏曲(k370)

ヴァイオリンが東フィルの2ndのフォアシュピーラーである小島愛子さんに交代。この方はユニークな動画で評価が高く、一部の音楽愛好家の間で「東フィルの至宝」と呼ばれています。この日もノリノリで絶好調。

オーボエの荒川さんはジョナサン・ケリーに師事しておられたとのことですが、音色は都響の広田さんを彷彿とさせる、豊かな音です。東フィルのもう一人の首席の加瀬さんがモーリス・ブールグの弟子なので、東フィルを聴きに行く時にはそのあたりの聴き分けを楽しむことができますね。

名オーボエ奏者、ヨアヒム・ラウのために書かれたこの曲を、色彩豊かに吹ききって、荒川さん、お見事でした。

クラリネット五重奏曲(k581)

べヴェラリさんの前説はなんとフランス語でした。通訳はフルートの神田さん。ちょっとコミカルで微笑ましいひととき。山本さんが戻ってきて1番、神田さんが2番。

べヴェラリさんの演奏は圧倒的でした。まあ、この晩の4曲の中でk581は圧倒的に名曲なので、ちょっとずるいといえばずるいですよね。最後に登場して、全部持っていった感がありました。

アンコール:フィガロの結婚序曲

全員で立奏(あ、さすがにチェロは座ってましたが)で、実に良かった。この編成で演奏しても、そんなに違和感がないのは、さすがに曲がしっかりしているからなんでしょうね。とにかくみなさん楽しそうで、聴いていて私も嬉しくなりました。Bravissimo !

私の切なる希望は、広幡さん、荒川さん、べヴェラリさんによるトリオ・ダンシュが聴きたい。次回は是非、お願いします。

素晴らしい演奏会でした。

この記事を書いた人

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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