今年の聴き納めは音楽監督ジョナサン・ノット指揮による東京交響楽団の第九。実は去年も同じ組合わせの第九が聴き納めでした。この1年は本当にとんでもないことになり、その状況はまだ続いています。昨年のこの時点では全く想像できなかった事態が日常となっているのは、なんとも信じがたいところです。
さて、ノットの第九。 昨年の演奏は快速テンポで爽快に駆け抜けるものでした。今年に関してもテンポが速めであることは予想していましたが、全く様相の異なる演奏となりました。
ノットにとっての第九とは?
つい3日前に聴いたセバスチャン・ヴァイグレ/読響の第九は、伝統を感じさせる豊かな響きの演奏でした。
対してノットにとっての第九とは、もちろん音楽史上に燦然と輝く傑作ではあるものの、ベートーヴェンの情念が込められた缶詰のような作なのではないかと私は感じました。
この曲が時系列的に流れていく全ての瞬間に込められた想いを、即興的に、あるいは敢えて刹那的に解き放つような指揮。それは良い意味で様式感とか、構造とかから自由なものであったように思います。聴き手は、次々と炸裂するインスピレーションに惹きこまれ、持って行かれてしまいました。もの凄いエネルギー。圧倒的な感銘。
冷静になって振り返ってみると、第九にはここまでいろいろなものが詰まっていたのかと感嘆しました。そしてそれを噴出させたノットの力量には、呆然とするばかりです。
ただ、ヴァイグレとの比較に於いて、どちらかが好きかと問われれば、私はヴァイグレを取ります。好きなのはヴァイグレ、感動したのはノット。
オケについて
ひとりひとりが優れた音楽家の集団であるオーケストラを馬に例えるのは大変失礼であると思いつつ、「人馬一体」の演奏であったと表現せざるを得ません。ノットのインスピレーションを瞬時に音に変換していく情景には、息を呑みました。水谷コンマスの凄さ。圧倒的でした。
木管のトップは敬称略で八木(フルート)、荒木(オーボエ)、ヌヴー(クラリネット)、福士(ファゴット)。個人的には東響のこの並びは好きですね。 みなさん大変素晴らしかったのですが、特筆すべきは荒木さん。歌のソリストにオブリガード的に絡む場面で、もう一人のソリストとして見事に歌っていたのには感嘆しました。日本にも、ついに世界標準のオーボエ奏者が!
蛍の光
アンコールに替えて、恒例の「蛍の光」が演奏されました。途中で照明が落とされ、オケのメンバーがキャンドルライトを灯す趣向なのですが、聴衆の中にブルーライトを持ち込んでいる人がいて、とても目立っておりました。
オーボエの最上さんが twitter でイングリッシュホルンの画像をアップしておられましたが、この曲だけのためだったのですよね。第九ではパートがありませんから。
今年の聴き納めにふさわしい、たいへん素晴らしい演奏会でありました。Bravissimo !