壮大なヴィオラの地平線〜東京都交響楽団第863回定期演奏会Bシリーズ

10月19日金曜日。仕事の予定は15時まで。羽田に直行して広島に飛び、カープのCS進出を見届ける選択肢を敢えて捨てて向かった先は、サントリーホール。マントヴァーニ作曲による、「2つのヴィオラと管弦楽のための協奏曲」の日本初演を聴くために。

プログラムの前半は、目玉のマントヴァーニの曲。ソリストは現代屈指のヴィオラの名手である、タベア・ツィンマーマンとアントワン・タメスティ。 後半はサン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」。指揮は都響の音楽監督、大野和士。オルガンは室住素子さん。

 

マントヴァーニ: 2つのヴィオラと管弦楽のための協奏曲

 

プログラムの解説によれば、

 

この40年ほどのフランス音楽は「知的な作曲技法」と「知覚可能な音楽」をどう両立させるかが課題となっている。

 

とのことですが、これはフランスに限った話ではないでしょう。コンサート・プログラムに「現代音楽」の曲が入っている場合、聴き手としては「同時代の聴衆としての義務感」から聴く、ということも少なくありません。(前半に現代音楽の曲があると、わざと遅れてくる方もけっこういらっしゃいます。)

こんなとき、全く聴いたことがない作品であるにもかかわらず、「実によかった」と思う曲と、「これは時間の無駄だったな」と言わざるを得ない曲に別れます。このあたりが音楽の面白いところなのでしょうね。

さて、マントヴァーニの曲。2009年に作曲されたとのことですから、まさに現代音楽です。

ソリストの二人は初演の際の演奏者でもあります。都響の矢部コンマスの事前ツィートが拡散したことにより、好楽家の間での期待は非常に高まっておりました。

私はこの曲について「知的に」解説する素養を持たないため、以下は感想にすぎませんが、まあ、凝った曲であり、それ以上に「凄い」を3乗するくらいの演奏でした。

作曲者は

 

私が音楽を書き始めてからというもの、「対立 conflict」というアイディアは私の主要な関心事の一つである。それは協奏曲というジャンル、そして空間化することに対する私の愛好心を増大させ続けてきたアイディアだ。

 

と述べていて、たしかに2つのヴィオラが互いに対立してみたり、一体となってオーケストラに対抗してみたり、という曲でした。

静かな部分では、2つのヴィオラが能のワキとシテのように感じられるところがあり、私としてはたいへん気に入った次第です。

それにしてもソリストの素晴らしいこと! 「ヴィオラという楽器はここまでできるのか」という、賛嘆を通り越して驚嘆ですね。 凄いものを聴かせてもらいました。

曲の後半でタベアさんのヴィオラの弦が切れ、5分ほど演奏が中断するというハプニングがありました。でも聴衆の集中力が途切れなかったのは、それまでの演奏がいかに凄いものであったかを示すものですよね。

 

サン=サーンス: 交響曲第3番 「オルガン付き」

 

都響はとてもうまいオケですし、大野さんも気合が入っているのは明らかでしたけれど、私としては、まったく感心しない演奏でした。 ブラヴォーは飛び交っていたのですけれど。

まず、バランスが悪い。この曲の魅惑的な木管の旋律(しかも、オーボエは広田さん!)が、弦の強奏にかぶられてしまって埋没。ワーグナーのようにバス・トロンボーンやチューバが強調されるのにも違和感が。

私はこの曲は「粋な」曲だと思っているので、最初から最後まで楽しむことができませんでした。帰宅後、ジャン・マルティノンの演奏を聴き直したほどです。

そうそう、この曲については、私たちにはもしかしたら理解できないところがあるのではと思っているところがあります。それは第4楽章でオルガンが入ってくる場面で、「救済」を連想するのかどうなのか、という点。カトリック教徒としてフランスで生活していない以上、このあたりはわからないのですが、どうなんでしょうね。

 

オーケストラについて

 

相変わらず都響は巧いです。オーボエは広田さん、クラリネットは三界さん、ファゴットは岡本さんでした。ほんとうは、もっと聞こえるはずだったのに、残念でした。

 

終演後

 

休憩時間にホールの外に出て、マツダスタジアムでの途中経過をチェック。 おお、勝ってる!

終演後にカラヤン広場で Radiko (RCC中国放送を聴くためにプレミアムにしてあります)を起動したら、フランスワが最終打者のゲレーロに対峙している場面でした。三振!

さて、日本シリーズですね。次は。

この記事を書いた人

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元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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