新バイロイト様式を想起させる「サロメ」:東京二期会オペラ劇場

フランクフルト歌劇場の音楽監督を2008年以来務めているセヴァスティアン・ヴァイグレ。その前は首席ホルン奏者として15年間ベルリン国立歌劇場に在籍していので、オペラの表も裏も知り尽くした劇場指揮者と言って良いかと思います。その彼がリヒャルト・シュトラウスの「サロメ」を振るというので、梅雨なのに汗ばむ陽気の中、上野の東京文化会館へ。

実は本来、この公演に行く予定ではありませんでした。都響のC定期の券を持っていたのと、ピットに入る読響のオーボエが蠣崎さんではないという情報を得ていたのがその理由。いっそのこと大阪に遠征し、デュトワ/大フィルの「サロメ」(こちらは演奏会形式)を聴くのも良いかなと思っていたのでした。しかし、思いがけずに券をいただけることになり、都響を捨てて上野へ。(あとで聞いたところでは、都響C定期の指揮者は稀にみる「トンデモ」系であったとのことで、期せずして災難を逃れることが出来たようです。)

さて、サロメ。言うまでもなく新約聖書の題材をもとにオスカー・ワイルドが書き上げた、狂気のドラマ。凄絶な狂気がテーマということでは、「エレクトラ」と並んでリヒャルト・シュトラウスの大傑作。1時間40分ほどの短いオペラですけれど、スコアは複雑。歌劇場のオケならともかく、ふだんはシンフォニーを演奏している読響にしてみれば、ここは指揮者が頼りです。

で、ヴァイグレ。さすがでした。危なげのない、ツボにはまった指揮であったと思います。ほんとうに「プロ」ですよね。

演出はヴィリー・デッカー。今回はハンブルク国立歌劇場の装置での演出で、初演は1995年だそうです。舞台は簡潔で、ヴィーラント・ヴァーグナーの新バイロイト様式を想起させるものがあります。こんな感じ。これはサロメがヨカナーンの生首にキスする、クライマックスの部分ですね。(この写真はプログラムを写したものです。)

プログラムには演出家のデッカーの解説が付いていて、これは面白い。

サロメが発散する色気は、手つかずの純潔さと飾り気のなさゆえだ。彼女は決して妖婦やストリップダンサーではない。(中略) 彼女は預言者の口から発せらる言葉に魅了されたゆえに、口づけをしたかったのであり、性的欲望からではなかった。ヨカナーンはサロメにとって、退廃的な世界から逃れるための願ってもない助け舟になるはずだったのだ。

非常にユニークな解釈ですが、だからこそモノトーンな舞台なのだと私は納得しました。

オケはさすが読響、上手だったのですが、オーボエのソロには不満が残りました。あまりにも艶が無い。私の中で「七つのヴェールの踊り」の名演は、ケルン放送交響楽団時代の宮本文昭さんの演奏。指揮は飛行機事故で夭折したエドゥアルト・マータでした。それはそれは妖艶な演奏だったのですが…

セヴァスティアン・ヴァイグレ、ほんとうに素晴らしい。次はエレクトラをお願いしたいものだと思いました。

この記事を書いた人

元永 徹司

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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