エサ=ペッカ・サロネンとフィルハーモニア管弦楽団の長年にわたる蜜月関係の掉尾を飾る今回の来日公演。最終日はマーラーの交響曲第9番でした。初日の段階ではちょっと空席が目立ちましたが、日を追うにつれてダントツの演奏水準であることが twitter で拡散し、最終日(1月29日)の芸劇はほぼ満席でした。これはSNSの威力ですね。
曲目は前半がサロネン自作の「ジェミニ」。これは日本初演。後半はマーラーの交響曲第9番。
サロネン:ジェミニ
これは組曲で、第1曲が「カストール」、第2曲が「ポルックス」。ジェミニのタイトル通り、双子ですね。ヨーロッパ文芸のコンテクストでは、ロムスとレムルスと同じくらい著名な双子の兄弟に、インスピレーションを求めた作品。
サロネンは世界的な指揮者であると同時に優れた作曲家でもあります。忙しいわりに多作であり、しかもその作品の水準が高いのはとても立派なことです。
今回の組曲、私はもちろん初めて聴いたのですが、とても面白いものでした。サロネンは作曲家としても後世に記憶される存在になると思います。
とりわけ今回の作品には和太鼓(の大太鼓)も加わっておりました。チェロとコントラバスの旋律に「木曽追分」からの引用があったように聴いたのは私だけでしょうか?
以外にも30分弱の大曲でした。オケは大奮闘。
マーラー:交響曲第9番
圧倒的な演奏。終演後、言葉無し。
サロネンのデビューはマイケル=ティルソン・トーマスの代役としてのマーラー3番でしたので、「マーラー指揮者」としての印象が強くありますよね。しかし実際には、彼が演奏したことがあるのは1、3、6番と「大地の歌」。意外にも、2番とか4、5番は振っていない(あるいは振ることが滅多にない)のです。そんな中での9番。1985年以来サロネンを追っている私にとっても、初めての9番でした。
マーラー9番の歴史的名演といえば、バルビローリ/ベルリン・フィル、バーンスタイン/ベルリン・フィルというあたりになろうかと思いますが、サロネンの音楽は全く異なるものでした。
バルビローリのあの揺蕩う風情(!)、あるいはバーンスタインのユダヤ的な血の共感といった要素は微塵もありません。優れた作曲家としてのサロネンが、この曲をあらためて作り直したような響き。他に類例を見ないユニークさなのですが、ものすごく説得力がありました。
なかでも、本当に圧倒的だったのが第4楽章。こんな凄い演奏は聴いたことがありませんし、今後、聴くことも無いのではと思います。終演時の切れば血が出るような静寂は、あたかも宗教的な儀礼のようですらありました。
サロネン、おそるべし。今後、私は彼とともに老いていくわけですが、どのような音楽を聴かせてくれるのか、同世代として非常に楽しみです。
オケについて
サロネンに対する圧倒的な信頼と、アマチュアリズムを思わせるような没入ぶり。いやいや、素晴らしい。
前回の来日時(2017年)と比べると、ずいぶん世代交代が進んでいるように思います。オーボエの名手ゴードン・ハントの姿は今回は無し。
その一方で若い新顔たちの上手いこと、上手いこと! パンクな出で立ちのファゴット首席、そして若き日のショスタコーヴィッチ似のホルン首席は卓越してました。サロネンの後を継ぐ、同じフィンランド出身のロウヴァリが今後このオケをどのようにリードするのか、これから楽しみですね。
今年6回目の演奏会。恐らくは今年のベストです。
追伸:写真はサロネンにもらったサインです。たぶん、EP Salo と書いてあるのかと。