今年は日本とフィンランドの修好100周年に当たります。記念切手も発行されたので、ご存知の方もいらっしゃるかと。フィンランドは「ムーミンの国」ですが、音楽愛好家にとっては、何と言っても「シベリウスの国」です。創設指揮者の渡邊暁雄先生のお母様がフィンランド人であったことから、フィンランドとの縁がとりわけ深い日フィルは3回にわたって修好100年記念プログラムを組んでおり、16日はその2回めでした。梅雨の合間の暑い日差しの中、サントリーホールへ。
以前にもこのブログに書きましたが、私は前世はフィンランド人だったのではと思うほどにシベリウスの音楽に共感を覚えます。フィンランディアで泣けるくらいですから、我ながら異常ですよね。
この日のプログラムは前半がフィンランディア、そしてヴァイオリン協奏曲。後半はドヴォルザークの交響曲第9番。シベリウスのヴァイオリン協奏曲のソリストは、元ヘルシンキ・フィルのコンマスで、今はソリストとして活動している、ペッカ・クーシスト。
シベリウス:交響詩 フィンランディア
日本で最もシベリウスを演奏している日フィルを、フィンランドの指揮者が振って変なことになりようがなく、立派な演奏でした。低弦へのアクセントの付け方に独自の工夫を感じました。インキネン 、成長してますね。
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲
実質的に、これがこの日のメインでした。ソリストのペッカ・クーシストはシベリウス音楽院で指揮者のインキネン の先輩。(インキネン はザハール・ブロン門下の優れたヴァイオリニストでもあるのです。)また、クーシストは室内アンサンブルの指揮者であり、その点で名教師、ヨルマ・パヌラ教授の弟子。(ここでも、クーシストの方が兄弟子。)
クーシストは、もちろん腕の立つヴァイオリニストであるのですけれど、最近の芸風は元都響コンマスの古澤さんを想起させるものがあります。この日も、あろうことか黒いパーカーを羽織り、長髪を頭の上でお団子にまとめて登場。
異彩を放つ出で立ちでしたけど、演奏は凄いの一言。全ての音符が、彼によって受肉される趣がありました。そう、今は亡きバーンスタインが振るマーラーのように。際立って個性的であり、彼以外のヴァイオリニストはこのようには弾けないでしょう。おそらく、コンクールでこんな風に弾いたら落ちるでしょうね。ただ、腕が立つことは間違いありませんし、私は彼の解釈を100%支持します。
インキネン とは綿密な打ち合わせがあったことと想像します。兄弟子を完璧に伴奏してました。
ソリストとヴィオラ首席の掛け合いがあるのですが、ヴィオラの客演首席が滅法上手いので感心しました。あとで伺ったら、安達真理さんでした。それは上手いはずですよね。
とにかくこのシベリウスの協奏曲は、私が今までに聴いた実演の中で、ダントツのベストとなりました。
ソリストのアンコールはフィンランドの地方都市ミッケリに伝わる民謡のメヌエットと、バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタからのメヌエットを繋げたもの。これも素晴らしかったです。
ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」
この前日の15日に横浜でもコンサートがあり、その時は「新世界」の代わりにシベリウスの5番が演奏されました。私は体調を崩していて聴けず、涙を飲んだのですけれど。とても良い演奏であったとのことです。
この日も、そのままシベリウスでも良いのに、なぜドヴォルザーク? という疑問はありましたが、どうやらプラハ交響楽団の常任指揮者でもあるインキネン の希望によるとのことでした。
結論から言えば、良かったです。名演でした。
とくに奇を衒うということはないのですが、要所要所でのアクセントの付け方に、インキネンの成長を感じます。
この人、幸運にも長命に恵まれれば、このあいだ引退を表明した巨匠ベルナルト・ハイティンクのような円熟を遂げるかもしれません。年齢的に私が聴き届けることができないであろうことは残念ですが。
オケについて
名曲コンサートということで、木管は副首席の方々がメインの布陣。フルート難波、オーボエ松岡、クラ伊藤(伊藤さんは首席)、ファゴット田内。(敬称略)。田内さんの音色は深くて暗い感じなので、シベリウスには合ってました。コンマスは客演の白井さん。この人はとても良いような気がします。ヴィオラの首席も客演で、先ほどご紹介した安達真理さん。この人は本当に有望ですよね。
アンコール
最後にシベリウスの「悲しいワルツ」がアンコールで演奏されました。フィンランド大使をはじめとしてフィンランドの方々も来られていたので、インキネン さんが英語とフィン語(!)で曲目を紹介していました。これも良い演奏でした。