あれから45年:東京都交響楽団 第889回定期演奏会

10月16日はマエストロ小泉和裕の70歳のお誕生日。それを祝うかのように都響の定期演奏会が開催されました。日が落ちて肌寒さすら感じる中で、カラヤン広場を足早に横切ってサントリー・ホールへ。

いま若手指揮者の国際的登竜門となっているのは、このあいだ沖澤のどかさんが優勝したブザンソン・コンクール。でも、その昔、帝王カラヤンが存命の頃にはカラヤン・コンクールというのがあって、こちらも大変な難関だったのです。

第一回の優勝者はオッコ・カム。いまや巨匠となったアレクサンドル・ラザレフも優勝者の一人です。このコンクールの第3回に優勝したのが若き日の小泉和裕さん。1973年のことでした。このとき日本の楽壇では大変な話題になりました。

小泉さんは新日フィルを振って1974年に「凱旋公演」をされたのですが、私はこのコンサートにおりました。中学3年生のときで、私にとってのコンサート・デビューでした。曲目はメインがチャイコフスキーの交響曲第5番。今も変わらない、あの跳ね上げるようなバトンで、スケールの大きな演奏であったことを覚えています。(私は映像記憶する人間なので。)当時の新日フィルの演奏能力は今日ほど高くはなく、ホルンなどには目立つ破綻がありました。でもそんなことにかまわず、颯爽と振り切った小泉さんに心からの拍手を送ったことを、今でも記憶しています。

あれから45年! その記念すべきコンサートの曲目は、前半がワーグナーのジークフリート牧歌。そして後半はブルックナーの交響曲第7番。堂々たるプログラムですよね。

 

ワーグナー:ジークフリート牧歌

言わずと知れた、ワーグナーが妻の誕生日(とクリスマス)を祝うために作った名曲。都響のメンバーのマエストロ小泉への敬愛の念がこもった、暖かい、良い演奏でした。いつもながら広田さんのオーボエの美しさ!彼のソロのあるあたりはオーボエ協奏曲のように響きます。

カラヤンコンクールで優勝すると、ご褒美に好きな曲をベルリン・フィルを振らせてもらえるのですけれど、あのとき小泉さんが選んだ曲は「トリスタンとイゾルデ」の前奏曲と「愛の死」でした。このことも思い起こさせる選曲でしたね。ちなみにこの演奏はFMで日本でも放送され、海賊版もあるはずです。

ところで私のかねてからの願いは、この曲をオリジナルの編成で聴くこと。弦は一人ずつであったという説があるので、相当違った響きになるはずなのですよね。いずれそういう酔狂なプログラムが組まれることを祈ってます。(マエストロ下野さんあたりに期待でしょうか?)

 

ブルックナー:交響曲第7番

この曲については、今年の9月に上岡さん指揮の新日本フィルによる卓越した演奏があり、これが私の中ではベスト。実に繊細で知的で、全ての声部が聴き取れて、しかも音楽的であるという稀有の演奏でした。

あと心に残る演奏はスイトナー/N響の1984年1月の演奏。この日の東京は大雪で、NHKホールは5割くらいの入り。このころ今よりももっとデッドだったNHKホールの残響が空席多数のために長くなり、豊かなブルックナーが鳴り響いたのでありました。

さて、小泉さんのブルックナーはとても動的なというか、運動量の豊かさを感じさせるものでした。朝比奈先生の路線とは大きく異なりますし、ヨッフムとも違う。ただ、強いて言えば、カラヤン/ヴィーン・フィルの演奏を想起させるところがあったように思います。換言すれば、アラン=タケシ・ギルバートの4番がそうであったように、この曲の演奏の伝統に囚われることなく、スコアを鳴らし切るという趣であったように私には感じられました。それにはもちろん、都響の高度な演奏能力あってのことであるわけですが。

疑いもなく名演でした。素晴らしかったです。

 

そしてサプライズ

終演後、鳴り止まぬ拍手の中で、ハッピーバースディが演奏され、さらに大拍手。すごく可笑しかったのが、シンバルとトライアングルが、この曲のためにブルックナーの全曲の間、ステージ上で待機していたこと。実はブルックナーの7番のクライマックスでシンバルを一閃させる指揮者もいて、例えばブルックナーの大権威であったヨッフムがそうでした。

この日、ブルックナー7番が始まった時点でシンバルが座っているのは視認できたので、「ああ、あそこでシンバル使うのか」と思っていたのですけれど、終曲まで彼の出番は無し。どうするのかな~と思っていたら、なんとハッピーバースディの一撃のため(だけ!)であったのですね。いやいや、なんということでしょう。

満場の拍手に応え、花束を抱えてカーテンコールに登場する小泉さんは、とても幸せそうでした。あれから45年。これからも活躍されますように!

この記事を書いた人

元永 徹司

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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