南西ドイツ放送交響楽団の首席奏者である、名手ハンノ・ドネヴェークを招聘しての、ファゴットにスポットライトを当てた、ちょっと珍しい演奏会。モーツアルト協会の例会ですので、プログラムは全てモーツアルトの曲。
前半にファゴット協奏曲K191、ファゴットとチェロのためのソナタK292(弦楽合奏版)、アンダンテK315(ファゴット編曲版)。 後半に「後宮からの脱走」K384からオスミンのアリア、そして管楽器のための協奏交響曲K297b。このプログラムをずっと吹き通しつつ、同時に指揮もするのですから、ドネヴェークのスタミナは大したものです。
ファゴット協奏曲K191
自分自身がファゴットを吹く関係上、実演、音源ともに、この曲の演奏には数多く接して来ました。それを踏まえての感想ですが、これ以上に魅力的な演奏を、私は聴いたことがありません。
まず、ドネヴェークの指揮が素晴らしい。ソリストとして、この曲をすみずみまで知り尽くした上での指揮。バックを務める室内アンサンブルも実に楽しそうに、そして機敏に反応して、素晴らしい演奏となりました。
ドネヴェークはクラウス・トゥーネマンの弟子だそうですが、音色はマンフレート・ブラウンを連想させるものでした。よく伸びる、豊な良い音。三楽章全てにカデンツァを入れて、「思う存分吹いたぞ!」という感じでした。
私はスタンディング・オベイションで讃えましたが、そこまで反応したのは私ひとりでした。(笑)
ファゴットとチェロのためのソナタK292(弦楽合奏版)
原曲はチェロとファゴットの2重奏ですが、ドネヴェークはチェロのパートを弦5部に編曲。これはこれで面白く聴けました。弦の若手奏者の方々の反応も俊敏で、とても良かった。
アンダンテK315(ファゴット編曲版)
もともとはフルートのための曲。これも弦5部との演奏に編曲。良い音。惚れ惚れします。
ここで休憩。お客の入りは上々。楽器を持ってきている若者もチラホラ。K292の楽譜とCDを購入。
「後宮からの脱走」K384からオスミンのアリア
バス歌手が歌うアリアをファゴットで吹くのですが、これが秀逸。管楽器って、歌うことがとても大切なんだよな、とあらためて痛感しました。
岡崎耕治さんがシューベルトの「冬の旅」を吹いて表現力を磨いたという話を思い出しました。
管楽器のための協奏交響曲K297b
今回もっとも楽しみにしていたのが、この曲。偽作であることはほとんど確定しているとのことだけど、良い曲であることは間違いありません。
ソリストとして参加したのは、古部さん(Ob)、三界さん(Cl)、日高さん(Hr)という私とほぼ同世代の名手の皆さん。ドネヴェークに触発されたのか、実に素晴らしい演奏でした。とくに古部さん。私は彼の演奏を折に触れて聴いて来ましたが、今回、一番感銘を受けました。本当に素晴らしい。とことん感動しました。
伴奏オケについて
とても自発的に、そして楽しそうに演奏していて、Bravi! でした。ホルンは若き名手、信末さん。彼は日高さんのお弟子さんなので、貴重な機会となったことでしょう。あと、お名前は存じ上げないけれど、第二Vnのトップを弾いておられた若い女性の奏者も、Brava でした。
ファゴットの魅力を存分に堪能した、素晴らしい演奏会でした。