通称「晴れオケ」のベートーヴェン・ツィクルスも、早いもので第4回め。残るは来年の6月の第九のみとなりました。地名に引っ掛けて「晴れた海の」という割には今まで雨や曇りだったのですが、今回は晴天。このツィクルスで初めての快晴だったのではないでしょうか。ちょっと風が冷たかったけれど、青空に気分を良くして運河を渡り、第一生命ホールへ。
曲目は前半が交響曲第6番「田園」、後半が第8番。
6番と8番の組み合わせというのは、実はかなり珍しいのではないかと思います。少なくとも私は初めて。1&3番というのはよくありますし、4&7番はベームが好きでした。セルはフィルハーモニア管とのクレンペラー追悼演奏会で8&9番という重いプログラムを組み、それはBBCの録音として遺されています。おそらく日本人の指揮者としてもっともベートーヴェン・ツィクルスを振ったであろう朝比奈先生の場合、1&3、2&7、4&6、8&5という組み合わせで固定されていたようです。
8&6番でなくて6&8番であるのも興味を引かれるところかと。素人としては、6番を後半に持ってきた方が座りが良いように思えますよね。この順番については晴れオケ内でも議論になったそうですが、やはり作曲順に従おうということになったと伺いました。それと、弦の方々にとっては、難物で名高い8番の第四楽章を終えて演奏会を締めるというのは達成感があるかもしれません。
ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」
もちろん全曲を通して美しかったのですが、白眉は第二楽章でした。なんというか、平凡な日常の美しさというか… 「田園」は長いな、と思って聴くことが多いのですが、全くそういう感じを受けませんでした。第四楽章のティンパニの叩き込みも鬼気迫るものがありました。
ベートーヴェン:交響曲第8番
これはユーモアの曲。名だたる巨匠たちが遺した録音の中で、一番はっちゃけているのは意外にもセルです。とりわけ第三楽章冒頭(3小節め)のトランペット。今回の演奏はそこまで振り切ったものではなく、言ってみれば大きなディベルティメントのような趣き。
第二楽章の頭のところ、朝比奈先生は、
あれは本当は指揮者なしでやってほしいなあ。(中略)室内楽です。完全に。それと音色が非常に大事です。
と述べられているのですが(朝比奈隆/金子隆「交響楽の世界」)、まさにそれを達成していて素晴らしい。
それと、弦セクションにとって非常に難しい第四楽章を、完璧に弾き通したのは、さすが晴れオケ。
アンコール:ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第16番第三楽章(弦楽合奏版)
これも凄かった。こういうのを聴いていると、シェーンベルクはこの延長線上にあるんだな、と感じ入った次第です。
晴れオケの凄さ
私たちはどうしても「カラヤンのベートーヴェン」とか「ベームのベートーヴェン」という聴き方をしてしまいますが、晴れオケの場合、聴き終わって感じるのは、「ベートーヴェンのベートーヴェン」を聴いた、ということでしょうか。
メンバーの皆さんは、もちろん全員が何度も弾いたり吹いたりしたことがあり、その時々の指揮者の指示とは別に、自分としてはどうしたいのかを感じておられたはず。それが集まり、その中で合わせていくという営みがあるわけで、いろいろと葛藤があるのだろうとは想像しますが、最終的にここまでの高みに到達しているのは凄いことです。ほとほと感心しました。矢部コンマス、さすがです。
いよいよ来年の6月は第九ですね。本当に楽しみです。