ラザレフのブラームスを聴きに大分へ:日本フィルハーモニー交響楽団第45回九州公演

今年75歳になる巨匠ラザレフ。チャイコフスキー、ショスタコーヴィッチ、プロコフィエフ、グラズノフといったロシアものが素晴らしいことには議論の余地はありませんが、好楽家としてはそれ以外の作品も聴いてみたいところ。そのラザレフが、なんとブラームスを振るというのです。しかもソリストとして同行するのは、河村尚子さん! ところがそれは東京の定期演奏会ではなく、九州での演奏会。九州各地を巡る10回の公演のうち、ブラームスの交響曲第1番とピアノ協奏曲第2番が並ぶのは2月12日の大分での公演だけ。この機会を逃すと、いつ聴けるかわからないので、予定を調整して大分へ飛ぶことにしました。

曲目は前半にブラームスのピアノ協奏曲第2番。後半がブラームスの交響曲第1番。会場は Ichiko グランシアタ。とても響の良い、美しいホールです。

ブラームス:ピアノ協奏曲第2番

私はかねてよりヴァイオリニストでは庄司沙也香さん、ピアニストでは河村尚子さんが現代日本の「てっぺん」だと考えています。その河村さんのブラームス、重厚な低音に支えられた、立体的構築感のある素晴らしい演奏でした。

すごくピアノが鳴っていたのですが、終演後河村さんに伺ったら、「楽器自体が、パワフルだったんですよ。なので、鳴らしちゃいました!」とのことでした。ブラーヴァ!

ラザレフ将軍もテンポを揺らしたりはせず、サポートに徹する指揮。全体として、すごく真っ当でちゃんとした演奏を聴いたという感じが残りました。

 

アンコール

会場の熱狂に応えて、アンコールは2曲。ブラームスの小品集 op.118-2 と op.119-3 。一転して情緒溢れる演奏でした。表現力の幅広さを印象づける選曲であったかと思います。

 

ブラームス:交響曲第1番

前半では杉原さん(オーボエ)、伊藤さん(クラリネット)、クリストフォーリさん(トランペット)、パケラさん(ティンパニ)が降り番。「地方公演だから、仕方ないのかな」とちょっとがっかりしていたのですが、後半に入って、全員揃って登場。日フィルのベストメンバーで臨むブラ1となりました。

この曲に関しては、ハンス・リヒター以来のドイツ的な解釈や慣習(「マイニンゲン様式」というやつですね)を強調した演奏として、アルノンクールの音源があるわけですが、ラザレフの演奏はその対極に位置するもの。冒頭のティンパニーの連打からして、皮が破れるのではと思うくらいの最強奏。「壊れたラジオが、いきなり大音量で鳴り出すイメージ」というラザレフの指示だったそうです。なんて指示だ!

第2楽章のコンマスのソロとホルンとのかけ合いも、ここまでホルンを強調する演奏を私は聴いたことがありません。

「奇を衒う」とか、そういうことではないのです。ラザレフ的には首尾一貫していて、とてもユニークではあるけれど、たいへん立派な演奏でした。ホルン隊には極度に負荷がかけられていましたが、それに応えて大健闘でした。今回のホルン首席は客演で、日高剛さん。とても立派なソロでした。

特筆すべきは3番ホルンを吹いた新人の信末さん。実にいいです。理事長の平井さんは、福井さんをN響に、日橋さんを読響に取られた経緯から、「うちは首席ホルン養成所の感があるからね。」と自嘲しておられましたが(泣)信末さん、近い将来、首席ホルンとして素晴らしい演奏を聴かせてくれることでしょう。

真鍋−杉原−伊藤−鈴木 の木管首席たちのアンサンブルもお見事。杉原さんも歌うこと、歌うこと。素晴らしかったです。

演奏はいわゆる「大演奏」。さらにコーダに向かって盛り上がって大熱演が終わったのですが、ラザレフのタクトが降り切るまで、数秒間の見事な静寂がありました。大分の聴衆のみなさんのレベル、高いですね。

 

アンコールはなんと、バッハ

Air が演奏されました。私はラザレフのバッハは初めてです。第二ヴァイオリンを強調する、これもユニークで美しい演奏でした。終演後、楽団員の方にうかがったところでは、第二ヴァイオリンには細かく指示を出す一方で、第一ヴァイオリンには「勝手に弾いていてくれ」みたいなリハーサルであったとのことでした。

 

九州公演を支える力

日フィルにとって、今回は第45回めの九州公演。渋谷の某オケだと、東京定期を任せない若手や客演の指揮者に「地方公演」を委ねているのに対して、日フィルは巨匠ラザレフと河村さんで勝負するという力の入れかた。これは本当にすばらしい。若い聴衆にとって、本当に貴重な機会となったはずです。

そして、各地に実行委員会が組織されていて、地元の好楽家の方々が献身的に支援される姿には感動しました。終演後、楽団長であるバス・トロンボーンの中根さんが「来年もまたお会いしましょう」とスピーチし、万雷の拍手で迎えられていて、私も嬉しくなりました。

 

そして放課後

横浜からわざわざ聴きにきたパトロネージュ会員ということで、懇親会(という名の打ち上げ)に招かれ、楽しい時間をすごしました。

中根さん、第一ヴァイオリンの松本さん(このお二人と私は同世代)、そして河村尚子さんと私の4人で、2時間にわたって音楽談義とバカ話。河村さんはとてもチャーミングな方でした。サインを頂戴したのですが、これってサインというよりも署名の趣きがありますよね(笑)。

わざわざ出かけた甲斐がありました。今年9回めの演奏会でした。

この記事を書いた人

元永 徹司

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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