すべての瞬間が緻密で美しいブルックナー:アンドリス・ネルソンス指揮 ライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

世界最古のオーケストラ、ライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団。このオケと、アメリカ最古のオケであるボストン交響楽団の双方の音楽監督を務める弱冠41歳のアンドリス・ネルソンス。CDでは聴いているものの、実演では初めて。期待に胸を躍らせて、サントリー・ホールへ。

曲目はブルックナーの交響曲第5番。今回、日本でこの曲が演奏されるのはこの日(5月30日)だけということもあり、サントリー・ホールにはマエストロ井上道義をはじめとして、玄人筋もたくさん詰めかけておられました。

私たちの世代は、このオケの録音をフランツ・コンヴィンチュニー(今では息子さんのオペラ演出家の方が有名ですが)の指揮で聴き始め、クルト・マズア時代の停滞を憂え、リッカルド・シャイーの時代には「このオケどうなっちゃうの?」と懸念しながら聴き続けてきました。ヘルベルト・ブロムシュテットの尽力によって再び世界のトップレベルへ復帰した彼らが音楽監督として選んだのが、ラトヴィア出身の当時40歳のアンドリス・ネルソンス。さて、どうなるか。

結論から先に言えば、すごい才能です。彼がエレーヌ・グリモーと録音したブラームスのピアノ協奏曲1番、2番を聴いたとき、その緻密さに驚きましたが、それと同じ水準をライブで聴かせてくれるとは…。

最初から最後まで、すべての瞬間が緻密に構成され、そしてゲヴァントハウスの名手たちの名技と相まって、実に美しい。細密画の絵巻物です。今まで数多く聴いてきたブル5の中で、一番「美しい」演奏であったことは間違いありませんし、今後このレベルの演奏を聴くことができるかと言えば、それはかなり難しいでしょうね。

ただ、これがブルックナーかと言えば、それはどうかという疑問は残ります。私は基本的にはこの路線の解釈に賛成ではありません。しかし、この高水準で聴かされると、それは素直に脱帽せざるを得ないですね。参りました。

彼の演奏を聴いていて思い出したのは、ハインツ・レーグナー。彼のブルックナーも細密な手工芸品の趣きがありましたけれど、ネルソンスはそれを二乗から三乗したような感がありました。すごい。

このオケ、20年前くらいまでは「セピア色」の音色であると評されていたのです。クルト・マズア指揮で、コンマスであったカール・ズスケと録音したベートヴェンのヴァイオリン協奏曲の録音をお聴きくだされば、その意味がわかります。

今はもう、モノクロームとカラーの差くらいに違います。時折のぞかせる仄暗さに、かつての名残りをうかがわせることはありますが。

第一楽章は、オケとしてはやや不調であったかもしれません。しかし、オーボエのヴァルグレンは本当に巧い。一昨年の来日時にも感心しましたが、相変わらず絶美な演奏が素晴らしい。ファゴットのペーターセンはその道では有名な人。この曲ではあまり活躍する場がないのですが、木管のアンサンブルをしっかり支えて、いかにもドイツのファゴットという音を聴かせてくれました。ホルンの首席は、ちょっと調子悪かったですかね。

オケ全体としては、「ここぞ」という局面でのパワーがすごい。しかし、そういう時でも各パートが明瞭に聴こえるのは、心底巧いからなのでしょう。いやいや、素晴らしいオケでした。

終演後は、大歓声。32,000円は正直法外の値付けと思いますが、この演奏に関しては「お釣りをもらった」気分でホールを後にしました。

この記事を書いた人

元永 徹司

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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