おそるべし、日本のアマオケ〜東京ユヴェントス・フィルハーモニー第18回定期演奏会

月島というか晴海というか、なんとも微妙な位置にある第一生命ホール。都響の矢部コンマス率いる「トリトン晴れた海のオーケストラ」の演奏会が開かれるホールなのですが、私が赴くときはいつも曇りか雨。昨日もどんよりしたお天気の中、強風にコートを押さえながら急ぎ足で運河を渡りました。

日本のアマチュア・オーケストラの充実ぶりは、世界に誇ってよいレベルに到達しているのではないでしょうか。とくに実力派の大学オケのOB、OGを中核とする団体の技倆たるや、たいへんなものです。東京ユヴェントスは慶應のワグネルが母体なのですけれど、おそらく日本を代表するアマオケのひとつ。畏友K井さんの奥様がこのオケで第二ヴァイオリンを弾いておられるのですが、すごいですよね。敬服の一語です。

指揮はこの楽団の創設者でもある坂入健司郎さん。彼は指揮だけで食べている訳ではないので、そういう意味ではセミプロなのかもしれませんが、いま日本で最も期待されている若手指揮者のひとりです。

曲目は、前半がベートーヴェンの交響曲第8番、そしてストラヴィンスキーのヴァイオリン協奏曲。さらにラヴェルのツィガーヌ。 後半はベートーヴェンの交響曲第5番。 ソリストは石上真由子さん。

オケは対向配置。コントラバスは指揮者からみて左奥。古典派を聴くときは、この配置がよいですよね。

ベートーヴェン:交響曲第8番

ベートーヴェンが作曲した9曲の交響曲のうち、1、2番とならんで演奏頻度が低いのがこの曲。でも私はこの曲が好きで、第2、第3楽章をBGMとして流したりします。

朝比奈隆さんによれば、この曲の真髄は「フモール」。ドイツ語のユーモアです。並み居る巨匠の中で、もっとも「遊んで」いるのは意外にもジョージ・セル。第三楽章のトランペットの哄笑は、実はユーモリストであったと伝えられるセルの面目躍如たるものがあります。ピエール・モントゥーも素晴らしい。

実はこの曲は難しくて、あちこちに難所があります。しかも、ベートーヴェンの指定するテンポはけっこう速いのです。日曜日の演奏は、それにもかかわらず、果敢な快速テンポ。フモール感よりも爽快感のある名演でした。これはこれで素晴らしいと思いました。

ストラヴィンスキー:ヴァイオリン協奏曲

ソリストに超絶技巧が求められるのは当然として、オケにとってもかなりな難物です。この曲を平然とプログラムに取り上げてしまうあたりに、このオケの自信がうかがえます。

ソリストは石上真由子さん。この方もすごい人なんです。海外コンクールでの優勝、受賞歴がキラキラとしているだけでなくて、なんと、お医者さんなのです。京都府立医大卒。文部省のジュニアの裏口入学とはわけが違います。いまは脳外科医を目指されているとのことです。

なんというのでしょうか、決然とした演奏でした。真剣を使った居合抜きのような。彼女の中にあるイメージを、思い切りバッサリと提示するという感じ。とても個性的で、新しい曲のように聴こえました。これはすごいことです。

オケは、細かい傷はあったものの、よくぞ弾いた!吹いた!

ラヴェル:ツィガーヌ

感動、という点で言えば、この曲がこの演奏会の白眉でした。もともと指揮者の坂入さんが Youtube で遊んでいて石上さんのツィガーヌの動画に接し、驚倒したことからこの演奏会の企画が始まったとのこと。石上さんの名刺代わりのような曲。

彼女、1挺のヴァイオリンでホールを支配しました。(ヴァイオリンは「挺」で数えるのです。)

すごかったです。ラヴェルはジプシー音楽に素材を得てこの曲を書いたのですが、石上さんの演奏は「ジプシー的」というものではなく、やはり彼女の感性をストレートに出したものであったように私には思われました。逸材ですね。今後に注目です。

ベートーヴェン:交響曲第5番

聴いていてアマオケであることを忘れさせる名演でした。やはり快速テンポ。そして自発性がすごい。音楽する喜びが爆発するような演奏。こういう演奏を聞くと、自分でも吹きたくなります。(吹けませんが…)

私は自分がファゴットを吹くのでどうしても管楽器が気になるのですが、みなさんとても上手でした。終演後、指揮者がファゴットを立たせたときに、ブラヴォーを叫んだのは私です。

この記事を書いた人

元永 徹司

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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