15年ぶりのヨーロッパ楽旅から帰ってきてから、演奏水準が向上したと言われる日フィル。日フィル得意のフィンランド系プログラムをピエタリ・インキネン が振るということで、予定を組み替えてサントリー・ホールへ。ホール外のカラヤン広場には特設ビアガーデンが出来ていて、非常に惹かれるものがあったのですが、時間に余裕が無く、足早に急ぐこととなったのが残念。
曲目は前半が湯浅譲二の「シベリウス讃ーミッドナイト・サンー」、そして指揮者としても有名なエサ=ペッカ・サロネンが作曲したヴァイオリン協奏曲。ソリストは諏訪内晶子。 後半はシベリウスの「四つの伝説曲」。このコンサートは「日本・フィンランド外交関係樹立100年記念公演」の一つでした。
湯浅譲二:「シベリウス讃ーミッドナイト・サンー」
1990年にヘルシンキ・フィルからの委嘱で作曲されたのだそうですが、私は初めて聴きました。単純に白夜を意味するのかと思っていたのですが、山崎浩太郎さんの解説によればもっと深い意味があるのだとか。湯浅さんには他にも The Midnight Sun と題した作品があり、その日本名は「夜半日頭に向かいて」となっているのだそうで、以下、山崎さんの解説を引用しますね。
この言葉は、世阿弥の著「九位」の中にあるもので、能のげいの高低を九つに分けたうちの最高の位「妙花風」の境地を説明するのに用いられた。北極地域でない日本では「夜半日頭」、つまり真夜中の太陽は見ることができるはずがない。この矛盾が意味する、言語の及ばない、心も位も超越した境地こそ、最高位だと言うのである。
曲は、どちらかと言うとキラキラしたパウダースノーのような曲でした。非常に不思議なのですが、和風な感じがするのですよね。面白く聴きました。
終演後、湯浅さんがステージに上がり、満場の喝采を受けておられたのですが、今年で90歳になられる筈。お元気で何よりです。
サロネン:ヴァイオリン協奏曲
同世代で私が最も高く評価する指揮者はサロネン。指揮者として多忙な生活を送っているにもかかわらずコンスタントに作品を発表しているのはすごいですね。
2017年にはヨー・ヨー・マのためにチェロ協奏曲を書き、シカゴ響で初演されました。以前にコンサートの後に二人で飲んでいて、酔った勢いで作曲することを約束したのだけれど、飲みすぎて二人ともはっきり覚えていなかったという傑作な逸話があります。
このヴァイオリン協奏曲は4楽章構成。しかし1−2楽章はアタッカで演奏されました。バリバリの現代音楽であるわけですが晦渋ではなく、綺麗な曲でした。ただ、超絶技巧が要求される曲ですね。
諏訪内晶子さんは真紅のドレスで登場。相変わらずの美貌ですが、それよりも凛として美しかったのが、音色。曲想に合った、とてもシャープな、しかし深みのある演奏でした。ブラーヴァ!
18歳の時にチャイコフスキーコンクールに優勝した彼女も、もう47歳。プライヴェートでは色々とあったと聞きますが、演奏に円熟味が加わっていることは何よりです。実は私、彼女が20歳くらいのころに東急田園都市線の車内でお見かけしたことがあるんです。本当に綺麗なお嬢さんでした。歳月が経つのは早いものですね。
シベリウス:四つの伝説曲
一般的には第3曲の「トゥオネラの白鳥」が有名ですが、私は第2曲の「トゥオネラのレンミンカイネン」と、終曲の「レンミンカイネンの帰郷」が好きですね。この作品、いかにも民族音楽風に演奏すると底が浅くなってしまうため、案外難しい曲であると私は考えています。そういう意味で、満足できる録音も少ないのが残念なところです。(定盤はユージン・オーマンディ指揮、フィラデルフィア管。ただ、とびきり素晴らしいのは、サロネン指揮ロスフィルの2014年ライヴ。海賊盤ですが…)
インキネン 、素晴らしかったです。見直した、と言っても良いくらい。私は未聴ですが、彼は日フィルと2015年にこの曲を演奏しています。そのとき聴かれた方が、今回の方が段違いに良いと言われていますので、彼も成長したのでしょうね。6月15、16日にもインキネン 指揮日フィルのシベリウスがありますので、楽しみです。
オケについて
ゲストコンマスとして、ヴィーンで活躍されている白井佳さんが来られていましたが、とても良かったと思います。木管はオーボエ杉原、フルート眞鍋、クラリネット伊藤、ファゴット鈴木。アングレは佐竹(敬称略)。安定したアンサンブル。トロンボーンのトップは見慣れない方。あとで伺ったところでは大フィルの首席を吹かれていた呉信一さんとのことでしたが、ビシッと決めておられてさすがでした。