これは、シベリウス演奏の新しい地平線?:日本フィルハーモニー交響楽団 第730回東京定期演奏会

首席指揮者であるピエタリ・インキネンが相変わらず来日できないため、代役として鈴木優人さんが登板。もともとの演目が何であったか忘れてしまいましたが、曲目も変更になり、北欧音楽のコンサートとなりました。6月のフィンランドを思わせるような空の下、サントリーホールへ。

幕開けはステンマハルの「序曲エクセルシオール!」。そして辻彩奈さんをソリストに迎えてシベリウスのヴァイオリン協奏曲。後半は同じくシベリウスの交響曲第6番。

ステンマハル:「序曲エクセルシオール!」

ステンマハルはシベリウスより6歳年下のスウェーデンの作曲家。ですので、そんなに古い人ではありません。「序曲」といっても舞台音楽ではなくて、一種の交響詩みたいなものだと理解すればよいのだと思います。

明るい小品。食事に繰り出す前にバーに立ち寄って飲むギムレットのような感じの曲でした。

シベリウス:ヴァイオリン協奏曲

ソリストの辻彩奈さんは、19歳のときにこの曲でモントリオール国際コンクールで優勝しています。twitter で「私にとって大切な曲」と語っておられましたが、すみずみまで磨き込まれた素晴らしい演奏でした。正統派の名演。鈴木優人さんの指揮も、ソリストをしっかりサポートして安定感がありました。

「正統派」と書いたのは、この曲に関しては忘れ難い超個性的な名演に接したことがあるからです。それはヘルシンキ・フィルのコンマスであったペッカ・クーシストの演奏。バックはインキネン/日フィルで、2019年6月21日のことでした。この演奏は本当に凄かった。でも、彼にしかできない演奏。

辻さんにとって、この曲は今後も「勝負曲」となるのでしょうから、どんなふうに深めていくのか、楽しみですね。

アンコールは首席チェロの菊池さんの伴奏で、シベリウスの「水滴」。ピチカートで演奏される3分ほどの作品でしたが、それでもシベリウス感が溢れる良い曲でした。

シベリウス:交響曲第6番

最近大活躍の鈴木優人さんですが、意外なことにこの曲は彼のレパートリーなんですよね。2019年の2月12日に、九州交響楽団と演奏しているんです。私はこの演奏を聴いております。日フィルの事務局の方も知らなかったので、教えて差し上げました。ちょっと自慢(笑)。

2年を経て、解釈の基本は同じであるものの、声部の重ねかた、リズムの強調といったあたりに格段の進化がありました。2年前の私は、シベリウス演奏の伝統が豊かな日フィル相手だったらどうだっただろうかと書いていますが、この2年間の進化/深化で、それは杞憂となりました。

この曲は凡庸な指揮者が振ると、のっぺり、あっさりと終わってしまうか、あるいは民謡風の旋律が強調されるばかりになってしまうのがオチです。ちょっと難しい曲だと思います。

そしてシベリウス愛好家歴50年の私が勇気を奮って言うのですが、鈴木優人さんのシベリウスにより、新しい地平線が開ける可能性があります。九響との演奏の際にその萌芽が見られていた、きちんとした構造感を伴ったユニークな響き。随所に新鮮な音像が浮かび上がり、私は興奮しました。今後、彼のシベリウスは大注目です。個人的には3、4番を聴かせていただきたい。あと、「レンミンカイネン」。

オーケストラについて

シベリウスについては、ほんとうに、日フィルは格別。さすが、世界で唯一、交響曲全集を3回録音しているだけのことはあります。(ヘルシンキフィルでさえ2回。ただ、100周年記念日本公演がCD化されたいるので、それを含めると3回になりますが。)

渡邉暁雄先生が亡くなってから31年が経過し、今日のメンバーには「アケ先生」の棒で演奏した人は居ない(トロンボーンの伊波さんが降りていたので)筈なのに、「アケ先生の音」がするのはほんとうに不思議なことです。

コンマスは木野さん。ヴィオラのデイヴィッド、ヴァイオリン協奏曲でのソリストの掛け合いは Bravo !  木管は敬称略でオーボエ杉原、フルート真鍋、クラ伊藤、ファゴット鈴木。素晴らしいアンサンブルでした。あと素晴らしかったのは新しく入団したトロンボーンの伊藤さん。彼が2番を吹くことによってセクション全体がすごく豊かに鳴り、その上に乗ってオッタヴィオのトランペットが燦然と輝くようになりました。来月のブルックナーが楽しみです。

日フィル、好調です。それが何よりも嬉しい。

この記事を書いた人

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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