「聴き初め」は、やはりファゴットで:紀尾井午後の音楽会 「披く(ひらく)」

今年の各オケのニューイヤーコンサートのラインナップがいまいち私には魅力的でなかったので、年明け2週間になんなんとする今日が「聴き初め」となりました。

それも、かなりマニアックなコンサート。N響首席ファゴット奏者である水谷上総さんと邦楽のお歴々によるアンサンブルです。昨年末にチラシで知りました。これですね。

私は迂闊にも邦楽の方々と「春祭」を演奏するのだと早とちりしていて、なんとすごい企画だろうかと感心していたのですが、実際には邦楽の曲、ピアノ伴奏による春の祭典、ファゴットと邦楽の合奏、という3つのパートからなる演奏会でありました。

会場は紀尾井の小ホール。到着して判明したのですが、この演奏会は邦楽の第一人者で、いずれはお父様のように人間国宝になられるであろう堅田新十郎さんを中心とする企画で、ファゴットはゲスト。ですので、聴衆のメインはお着物のご婦人方と、かなりお年を召された男性客。あと、ひと握りの若者たち。これは東京音大での水谷さんのお弟子さんですね。

曲目は最初に三世杵屋正次郎による長唄「元禄風花見踊」、ストラヴィンスキーの「春の祭典」第1部、そして堅田新十郎構成による「囃子組曲より」。

三世杵屋正次郎:長唄「元禄風花見踊」

邦楽に疎い私でも、「ああ、このメロディーか」とわかる曲。Youtube にあったので貼っておきますね。

このYoutube でもメインの唄をされている杵屋佐喜さんが、今日もメインでした。

さすが邦楽の第一人者の方々の演奏は素晴らしく、堪能しました。とくに小鼓、いいですね。私もやってみたい。

ストラヴィンスキー:「春の祭典」第1部

ファゴットとピアノ伴奏による演奏。もともとストラヴィンスキーがピアノ連弾用に編曲したものをベースに、さらにファゴットソナタとして編曲したらしい。ですので、本来のファゴットパートだけでなく、他の管楽器のパートも吹きます。ピアノは弦パートを受け持っているイメージ。

演奏するのは技巧的にも体力的にもかなりしんどいと思われるのですが、わが国を代表する名手の一人である水谷さんは楽々と吹いていきます。ファゴットパートではヴィヴラートをあまりかけないのですが、他の管楽器、オーボエやイングリッシュホルンのソロをカバーする場面では結構かけてましたね。このあたりは、さすがとしか言いようがありません。

ファゴット吹きの端くれである私は、圧倒的な感銘を受けましたが、場内の8割を超えるとおぼしき邦楽の方々にはあまり受けなかったようで残念でした。まあ、でもそれも無理はなくて、この演奏の真価を味わうためには、1)「春の祭典」をよく聴きこんでいること、そして2)ファゴットの演奏上の特性を理解していること、が必要ですからね。

大半の方はそもそもファゴットをご存じないようで、プログラムには以下の説明文がのせられておりました(笑)。

ファゴットはオーボエや日本の篳篥と同様、ダブル・リードの楽器です。しかし、管にリードを直接差し込んで吹くことができないので、楽器本体に挿入されている曲がった金属管にリードをつけて、楽器を鳴らします。

それしても凄かった。ひとりで大拍手して、周囲から浮いておりました。

堅田新十郎構成:「囃子組曲より」

この曲ではじめてファゴットと邦楽の合奏となります。構成は、笛、小鼓、大鼓、太鼓、そしてファゴット。ファゴットが真ん中に正座(!)して演奏するという、私が今までに一度たりとも見たことがない奇観にびっくり。水谷さん、着物に着替えるかなと期待しましたが、さすがに燕尾のままでした。

「火の鳥」の「子守歌」、カルメンの「アルカラの竜騎兵」そして尹伊桑の「ファゴットのためのモノローグ」からメロディーを拾い、それと日本の民謡を組み合わせて組曲化するという、けっこうとんでもない試み。ファゴットはアンブシュアを動かすことで音程の揺れを表現できるので、案外と邦楽に溶け込む感がありました。いやいや、面白かったです。かなり戸惑いましたが。

終演後、ロビーに集まっていた若手ファゴット奏者たちから聞こえてきた、「私、シュールすぎてびっくり。だって先生が真ん中に正座してるんだよ!」という声にうなづきながらホールを出ました。

今年の聴き初めにふさわしい演奏会でした。

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元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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