ベートーヴェン生誕250周年とトリトンホール20周年を記念しての、交響曲全曲演奏というこの企画。毎回、とんでもなく高いレベルの演奏を聴かせてもらって来ましたが、いよいよ最終回。本来は昨年の6月に予定されていたのですが、コロナ禍で延期に。この間、本当にいろいろなことがあっての、今回の公演。ずっと聴き続けている聴衆の一人としても感無量です。
曲目は遅刻者対策の序曲などはなくて、「第九」のみ。ソリストは澤畑恵美(ソプラノ)、林美智子(メゾソプラノ)、福井敬(テノール)、黒田博(バリトン)のみなさん。合唱は東京混声合唱団。
東京で暮らしていると毎年の暮れにさまざまな指揮者による演奏に接することになり、そのなかには素晴らしい演奏も数多くありました。しかし、今回のような演奏に今後接することができるかというと、それはもう難しいかもしれません。それほど素晴らしい、そして何よりも心に残る演奏でした。
矢部達哉さんの頭の中にあった第九が、一人一人のプレイヤーの共感を集めて大河のようになり、そして海にそそぐ到達点では、他の誰でもない、「ベートーヴェンの第九」になっていました。
正直、何を言っても「素晴らしかった」ということになるのですが、以下、自分の心覚えのために心を揺さぶられた点について残しておこうかと。
第一楽章冒頭部。天地創造の混沌に例えられることのあるところだけれど、思いのほかに矢部さんがはっきり弾き始めたのは、「そう来るか」という感じでした。決然とした開始。あとでふりかえってみると、ああでなければならなかったのだな、と思いました。
第二楽章。ティンパニが素晴らしい。このためには、あの楽器配置である必要がありますね。弦バスと補い合っての分厚い響き。
第三楽章。このあたりから一層、神がかって来ました。冒頭のファゴットの、陽光がさすような響き。
第四楽章。あのチェロの調べの、なんという暖かさ、そして深さ。ここだけでも、今後このような演奏を聴くことができるかどうか…
そして、
Ihr stürzt nieder, Millionen?
Ahnest du den Schöpfer, Welt?
Such’ ihn über’m Sternenzelt!
Über Sternen muß er wohnen.
のところの神々しさには、ひたすら圧倒されました。
終演後は、席を立てず。
今更ながら、矢部さんは凄い。 もちろん晴れオケのみなさんも。 ありがとうございました。
今年はこの後2回(ルイージ/N響とノット/東響)を聴く予定なのですが、どうしよう… もちろん、楽しみではありますが。