日本のトップを聴く:小山実稚恵の室内楽第5回

あの「晴れオケの第九」を聴いたのが先週の土曜日。その間にマイスタージンガーの千穐楽をはさみ、一週間後にこの演奏会。矢部さんも池松さんも実にタフですね。尊敬します。私などはマイスタージンガーを聴いているだけでバテてしまいましたので…

さて、今回の曲目は、前半にブラームスのピアノ五重奏曲へ短調作品34。後半にシューベルトのピアノ五重奏曲イ長調「ます」。

ブラームスは豊嶋さん、矢部さん、川本さん、上村さんと、小山さん。シューベルトでは豊嶋さんが抜けて、池松さんが入ります。なんと豪華なメンバーなのでしょう。会場には楽器ケースを持った若い人が目立ちましたが、さもありなん。最高の学びの機会ですよね。

ブラームス:ピアノ五重奏曲へ短調作品34

あまりにも陳腐な反応と知りつつも、「これぞブラームス!」と言いたくなる演奏でした。ファーストを豊嶋さん、セカンドを矢部さんが弾かれたのですが、矢部さんの中低音がよく鳴っていて、合奏の音価が上がる感がありました。

第二楽章の出だしは甘く演奏することもできるかと思いますが、豊嶋さんが弾かれると、古武士が梅を愛でている情景が想起されました。

今風の言葉でいうと、「胸熱」なブラームス。じっくりと堪能することができました。

シューベルト:ピアノ五重奏曲イ長調「ます」

名曲ですので実演に接することも多いのですが、文句なく(私にとって)今までのベスト。いやいや、素晴らしい。

有名な第四楽章。ここは軽快に演奏されることが多いことに実は私は疑問を持っていました。というのは、シューベルトが描写した「ます」はヨーロッパの河川に生息する Brown Trout で、日本の「鱒」とは種類が違いますし、ヴィーン近辺の川は日本の渓流に比べるともっと緩やかに流れているはずなのですよね。

楽界を代表する釣り師でもある池松さんの意見が反映されたかどうかは定かではありませんが、ゆったりと歌われる旋律にピアノが優雅に入ってきて、春の陽光を連想させる美しい音楽となりました。

アンコールはこの第四楽章の冒頭を弦が弾いて、小山さんが聴き惚れるという趣向で、とてもお洒落でした。

解説が素晴らしい

有田栄さんという音楽学者の方が解説を書かれているのですが、これがたいへん素晴らしい。昭和音大の先生でいらっしゃいます。アマゾンで検索したところ、まだ単著は無いようなのですが、音楽史の本を共著で出されているようなので、早速ポチった次第です。

晴れオケを聴いた1週間後に、こんなに素晴らしい演奏に接することができて、本当に感謝でした。

注: 写真はトリトンアーツの twitter から拝借したものです。

この記事を書いた人

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元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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