私が音楽を聴きはじめたころ、クリストフ・エッシェンバッハはピアニストとして既に有名でした。戦争の影響でドイツでのこの世代の音楽家は枯渇していて、非常に期待されているという話を聞いた覚えがあります。ところが(といってもよくある話ですが)、彼は指揮者に転向してしまいます。その後しばらく彼の演奏に接することがなかったのですけれど、1999年4月のヒューストン響とのブルックナー6番の録音を聴いて、「これはひょっとすると…」と思ったのが、指揮者としての彼との出会いでした。
エッシェンバッハは2000年代に入って北ドイツ放送交響楽団(NDR)の首席指揮者に就任し、国際的なキャリアへの階段を登り始めます。
このころの正規録音はシューマンの交響曲全集がありますが、面白いのは海賊盤で、かなり「変」な演奏も残されています。その後、パリ管、フィラデルフィア管の首席指揮者にも就任。パリ管とのルーセル、フィラデルフィアとのベートーヴェン交響曲全集(海賊盤)も良いのですが、やはりこの人の持ち味はマーラー、ブルックナーの大曲に発揮されるかと思います。マーラーでは1、2、4、5、6、9番の音源がありますが、特に2番を好んでいるようで、NDRともフィラデルフィアとも演奏しています。
今回も2番でした。ソリストはマリソル・モンタルヴォ(ソプラノ)と、藤村実穂子さん(メゾ・ソプラノ)。
マーラー:交響曲第2番「復活」
初日と2日目のどちらを選ぶか。エッシェンバッハは棒のうまい指揮者ではないので、2日目を選択。初日に行った方々からの tweet によれば、明らかにズレたとわかる事故が発生したとのこと。やはり…
さてエッシェンバッハの復活、私はとても面白く聴きました。この人の弱音へのこだわりには飛び抜けたものがありますね。結果として光と闇のコントラストが際立って、効果的であったと思います。
あとはテンポ。かなり自由に揺らします。これを即興的にやられたら、それはズレるでしょうね。昨日は2日めだったのでN響も臨戦態勢という趣があり、それが緊迫感を生み出していたように思います。それでも危ないところは2、3箇所ありました。ホルン首席の今井さんがグンと踏み込んで事なきを得たり、オーボエ首席の吉村さんが旋律の途中で指揮者を見切った(ように私には見えた)局面とか。
でも、私はエッシェンバッハ、好きですよ。この人のことを怪演指揮者と貶す向きもあることは承知していますが、彼は奇をてらっているわけではなく、あくまでも真摯に自分の音楽を追求しているのだと私は思いますし、その音楽は素晴らしいものです。一昨年のブラームスのツィクルスも、さすがと思わされる出来でしたし。彼も今年の2月で80歳。最期の輝きを放ちつつあるというところでしょうか。
昨日の「復活」も私として今までに実演で聴いた中ではベストです。感動しました。
オケ、合唱団、ソリストについて
N響、こうして聴いてみるとやはり上手い。木管はフルート神田、オーボエ吉村、クラリネット伊藤、ファゴット宇賀神、アングレ(3楽章まで)池田(敬称略)。フルートとオーボエの合わせが凄い。吉村さんも神経質なところがなくて、豊かな良い音。
金管は大健闘で、トランペット長谷川さん、トロンボーン吉川さんはとりわけ水際立った演奏でした。
合唱は新国立劇場合唱団だったのですが、彼らを招聘したのは大正解。この曲で暑苦しく歌われたら興醒めですものね。
圧倒的だったのは藤村実穂子さん。第四楽章冒頭の “ O Röschen roth ! “ の歌い出しのところでは鳥肌が立つ思いでした。凄い。
とても良い演奏会でした。今年、第2回目。