裸足の天使、コパチンスカヤの才能に圧倒された夜: 東京都交響楽団 第871回定期演奏会

午後から気温が下がり、これはもしかしたら雪になるかと思いながらサントリーホールへ。クラシック音楽オタクの間で有名なツイッタラーの方が急逝されたニュースが流れ、一部聴衆の間にはなんとなく追悼演奏会のような雰囲気が漂っておりました。

曲目は前半がシェーンベルクのヴァイオリン協奏曲。ソリストはパトリシア・コパチンスカヤ。
後半はブルックナーの交響曲第6番。指揮は音楽監督の大野和士さん。

シェーンベルク: ヴァイオリン協奏曲

演奏至難といわれていて、実際のところ私も今回が初の実演。おそろしく複雑な曲ですね。あのハイフェッツが初演を辞退したというのですから、難しさがわかります。

ところがコパチンスカヤは、裸足でステップを踏みながら、軽々と、楽しげに、そして美しく弾くのです。まるで遊んでいるかのように。これにはびっくり。

しかも、オケに仕掛けていきます。指揮の大野さんは、そのすべてを打ち返すことができなかったように見えました。幸い、都響は管のソロ奏者に恵まれているので、彼らが自発的に応戦(しているように私には感じられました)。首席オーボエの広田さんなんかは、コパチンスカとのやり取りを楽しんでいるかのようでした。すごい世界でした。ああ、矢部コンマスだったらどんなに良かったか!

終演後は大拍手。すごいものを聴かせてもらいました。

演奏会に先立って、初演者であるルイス・クラスナーが弾いて、ディミートリー・ミトロプーロス指揮のバイエルン放送交響楽団が伴奏している音源で予習したのですが、解像度で8ミリと8Kくらいの差がありました。こういう曲は、やはり実演を聴かないとわからないということと、そしてコパチンスカヤがいかにすごいか、ということですね。3月にはベルリン・フィルとこの曲を演奏するのだそうで、これもすごいことになりそうですね。

帰宅後、慌てて2月のコパチンスカヤのチケット販売状況をチェック。そう、テオドール・クルレンツィス指揮、ムジカ・エテルナとのチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲です。東京は完売。でも大阪には空席が。ということで、2月14日は大阪に飛ぶことといたしました。

 

ブルックナー: 交響曲第6番

ブルックナーの曲は美しいアダージョで有名ですが、私はこの6番の第二楽章を偏愛しています。曲全体としても、8、9番よりも好き。6番は後期5曲の中ではもっとも演奏頻度が低いのですが、昨年はカンブルラン/読響、下野/広響、上岡/新日フィルと3回も聴くことができて大満足。下野さんのときは、このために広島まで飛びました。

それほど愛している曲だけに、今回の演奏には落胆しました。(好みではない、という意味ですよ。)

まず、バランスがおかしい。シェーンベルクの冒頭でもそうだったのですが。私の席は2階中央5列なので、座席のせいではないと思います。まあ、この点は第二楽章以降では修正されましたけど。

そして、なんといっても残念だと思われたのは、恣意的(と私には感じられた)なディミニエンド、リタルダントの多用です。結果、デフォルメされた厚化粧な演奏になってしまったと私は思いますね。素晴らしい素材なのに、凝りすぎたソースがかかったり、妙にピリ辛風味になってしまったりしてがっかり、という感じです。うーむ。あの上岡さんでも、ここまではやらなかったのに(笑)。

それ以外にもホルンへのバランスにちょっと奇をてらったようなところがあり、恣意的なテンポ操作とあいまって、「大野和士編曲版」を聴かせてもらった感がありました。

ネット上でも賛否両論でしたね。

第二楽章を絶賛している方が多かったのですが、敢えて申し上げれば、それは6番をたくさん聴いていないからだと思いますよ。素直に演れば、もっと美しく響きます。

ではお前はどんな演奏が好みなんだ? と問われれば、古いところではヨーゼフ・カイルベルト指揮、ベルリン・フィル。ちょっと後だと、オイゲン・ヨッフム指揮、バイエルン放送交響楽団。近年の特筆すべき名演といえば、エサ=ペッカ・サロネン指揮のヴィーン・フィル。ただ、これは残念ながら海賊版なんですよね…

実演だと1987年にシカゴで聴いた、ブロムシュテット指揮のシカゴ響。シカゴの金管群による、壮麗な伽藍を忘れることはできません。昨年4月の下野さん広響もよかった。私は下野さんがブルックナー指揮者として大成されることを期待しています。

 

オケについて

いまさらではありますが、都響の演奏能力は卓越していますね。ただ、ホルンはちょっと残念でした。今後の補強ポイント。

あと、オーボエの広田さん。第二楽章が、あの指揮にもかかわらず純朴な美しさを保つことができたのは、広田さんが曲想に合わせた太めの音でヴィヴラートを抑えて美しく吹いてくれたからです。いや、ほんとに日本を代表する名手ですね。感嘆しました。ホルンがそれに応じることができなかったのは残念でしたけど。

 

 

この記事を書いた人

元永 徹司

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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