読後感: 「大名絵師 写楽」野口卓著 〜独創的な新説に魅かれて思わず一気読み。

お正月の日経の読書欄だったと思うのですが、「昨年のベスト3」に挙げておられる方がいらして、印象に残っていたので購入しました。なるほど、これは凄い。面白い。いままでこの作者を知らなかったことを後悔しています。

歴史小説といってもいろいろ

まったくの私見ですが、いわゆる歴史小説には4つのタイプがあると思っています。

1)歴史上の人物を題材に、理想の人物像を描きあげるもの。
葉室麟さんとか、こういう作品が多いような印象があります。「主人公のすがすがしい生きざまに感動しました。」というような読後感が寄せられるタイプ。でも私は個人的にはこの種のものは苦手です。

2)設定は昔なのだけど、描かれる人間関係は今日に通じるもの。
代表例は池波正太郎さんでしょうか。「鬼平犯科帳」は日本企業の中間管理職にとってはバイブルと言える作品です。

3)登場人物を材料にして、時代そのものを描くもの。
司馬遼太郎さんですね、第一人者は。

4)歴史上の謎を、小説の形で解明するもの。
古くは松本清張さんの邪馬台国ものとか。新しいところだと加藤廣さんの戦国ものとか。私はこのタイプを好んで読んでおります。

「大名絵師 写楽」は(4)に属します。それも、素晴らしい出来栄えの。

 

「大名絵師 写楽」の、どこが凄いのか

写楽の正体をめぐる謎解き本は、いままでたくさん出ています。 ネタバレになるので詳しくは触れませんが、今回の新説は「おお!」と思わせる卓抜なものです。

当然、ストーリーの展開の中で、いままでに提示された諸説にケリをつけていくのですけれど、その料理の仕方がまたユニーク。短い期間ながら作風が変遷していることと、落款の違いについての説明も卓抜です。

あと感嘆させられたのは、このころの江戸の芝居について、そして浮世絵の印刷から販売までの流れと商いについての、作者の知見の厚みでしょうか。それがまたストーリーの展開に効いてくるあたり、圧巻です。

これからお読みになろうとする方は、ぜひ写楽の画集をお手元にご用意されるとよろしいかと。私は新潮日本美術文庫しか持っていないのですが、それでもじゅうぶん役に立ちました。

作者は落語にも造詣が深いようで、啓蒙書を数冊書かれているようです。これから読むのが楽しみです。

 

 

この記事を書いた人

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元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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