映画音楽の作曲家として著名な久石讓さん。その彼の指揮するベートーヴェンはどのように響くのか? 予備知識ほとんどゼロの状態でミューザ川崎へ赴きました。大人気のサマーミューザなのに、当日券が販売されていて、ちょっと意外。一般受けする選曲だと思うのですが。
実は私、プログラムの解説を読むまで久石さんがクラシックの世界に転じられていることを知りませんでした。元N響の茂木さんのご親戚ということは、なぜか存じ上げていたのですが。
曲目は最初に久石さんの Encounter for String Orchestra 。次にベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲(ソリストは豊嶋さん)。休憩を挟んで、ベートーヴェンの交響曲第7番。
結論から申し上げると、とても面白い演奏会でした。終演後、急いで i-Pad を起動して、久石さんが指揮するベートーヴェン交響曲全集と「春の祭典」のCDを注文したくらいです。
久石譲:Encounter for String Orchestra
ちょっとブリテンのシンプル・シンフォニーを思わせる、素敵な曲でした。変拍子が面白い。
指揮者とオケの間にはかなり緊密な信頼関係が築かれていることをうかがわせる演奏でした。ミニマル・ミュージック、いいじゃないですか。
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲
豊嶋さんが明らかに不調(衰えとは考えたくないけど…)であったため、ハラハラしながら聴きました。オケ、とくに管楽器のトップ奏者たちが寄り添うようにして支える感じ。
カデンツアは、もともとベートーヴェンがこの曲をピアノ協奏曲に編曲した際に自らが作曲したものを、久石さんがアレンジしたとのことで、まず長い。そしてコンマス、チェロ首席、ティンパニが加わるというものでした。面白いけど、感銘を受けるということはありませんでしたね。
ベートーヴェン:交響曲第7番
「舞踏の聖化」と評されるこの曲ですから、ミニマル・ミュージック的な解釈との親和性はとても高いと言うべきなのでしょう。ユニークで、とても説得力のある演奏でした。(なので、「他の曲はどうなんだろう?」とCDを買うことにしたわけです。)
久石さん、とても良い指揮者であると思いました。第四楽章なんかは、スフォルツァンドを強調して、刺激的。ほんとに面白い演奏でした。唯一不満があるとすれば、管がかなり「従」の位置付けになっていたこと。こういうあたりで私が唸ったのはサロネン/フィルハーモニアの演奏であったわけですが、それは基本思想が違うと捉えるべきでしょうね。
オケについて
新日フィルは自前の興行だとメンバー表をくれるのですが、今日はミューザ川崎主催ということなのか、配布は無し。オーボエは古部さんだと思いますが、遠目なので自信無し。7番でのソロの美音はさすが。ファゴットはトップが河村さん、2番は石川さん。河村さんのヴァイオリン協奏曲でのソロは素晴らしいものでした。ドイツの音です。第三楽章の豊嶋さんとの絡みは、不安定なソロにぴったりと付けて、なおかつ歌っておられて、ブラーヴァでした。いま、在京のオケで私がソロを聴きたいファゴットは、河村さんと、東響の福士さんですね。
12型で対向配置。弦の譜面台は各自に一つ。弦楽器はマスクしている人もいれば、そうでない方もありでした。
終演後、拍手に応えて豊嶋さん、久石さん、コンマスの崔さんが肩を組んで登場したのですが、昔懐かしい「悪役商会」の昭和の香りが漂う感がありました(笑)。