やはりアンサンブルは楽しい:アンサンブル・パストラーレ 室内楽シリーズ Vol.1

コロナ禍をきっかけの一つとして発足したアンサンブル・パストラーレ。活動のメインは交響曲の名曲を弦五部プラス木管五重奏の合計10人で演奏するというもので、各奏者の名技と、森亮平さんの編曲の妙が魅力。(実はもうひとつ魅力があって、それは進藤一茂さんのデザインによるプログラム。)ところが今回は諸般の事情により、森さんの編曲と進藤さんのデザインは無しで、室内楽の名曲を素直に演奏しましょうという趣向。とはいえ、そこは流石にこの団体で、凝ったプログラムで楽しませてくれました。

曲目は、前半に ニールセンの「軽快なセレナード」とケクランの木管三重奏。 後半にモーツアルトのフルート四重奏曲第4番と、ベートーヴェンの七重奏曲。

ニールセン:軽快なセレナード

一般に「軽快な」と訳されているのは実は誤訳で、ここでの in vano は「無駄な」(つまり英語の in vain )と訳すのが正解という説があります。ニールセンの説明によれば、この曲は美女の気を引こうとして男たちがセレナードを歌うけれども、美女は一向に窓辺に現れてくれないという情景を描写した冗談音楽とのこと。

なるほど、だからこんな変わった編成なんですね。つまり、ヴァイオリンとヴィオラ(=美女)はお休みで、さまざまな男たち(チェロ、コントラバス、クラリネット、ファゴット、ホルン)が求愛の歌を競うというわけです。とすれば、「無駄なセレナード」ではなく、「空回りのセレナード」と意訳した方が良いのかもしれませんね。

各楽器が思い思いに歌う風情があって、よかったです。ホルン(加藤さん)がちょっとうるさいかなぁ、と思ったけど、こういう作曲意図であるなれば、むしろ解釈として素晴らしいと評すべきなのかもしれません(笑)。

ケクラン:木管三重奏

この曲も面白い編成。通常、木管三重奏は「トリオ・ダンシュ」と呼ばれ、オーボエ、クラリネット、ファゴットで構成されます。この3つの楽器は全てリードを使うので、「葦(リードの原料)のトリオ」であるわけですね。しかし、ケクランはオーボエの代わりにフルートを起用。これにより新鮮な響きが得られるわけですが、反面、発声原理の違う楽器が入ってくることにより、合わせるのが難しくなると私は感じます。

とはいえ、フルート(満丸さん)、クラリネット(べヴェさん)、ファゴット(廣幡さん)のアンサンブルは見事。ケクランはおそらくバッソンを念頭において作曲していると思われ、ファゴットで吹く場合には音色を調整するのが難しいはずなのですが、そんなことを全く感じさせない廣幡さん、Brava ! でした。 べヴェさんは相変わらずめちゃくちゃに上手。

この曲は3楽章から成っていて、技巧的には第三楽章が一番難しく、聴かせどころではあるのですけれど、私は第二楽章が素晴らしかったと思います。演奏前にべヴェさんが「教会音楽のような」と語ってくれましたが、カトリックのそれというよりも東方教会的な印象を受けました。

モーツアルト:フルート四重奏曲第4番

よく演奏されるのは第1番。私は実演で第4番を初めて聴きました。フルートは名古屋フィルの満丸さん。パストラーレの第一回演奏会のときに彼のことを知ったのですが、実に素晴らしい。伸びやかな、とても良い音。

弦はヴァイオリンが東フィルの名コンマス、三浦さん。ヴィオラは日フィル→都響のディヴィッド。チェロは佐古さん。満丸さんとのやりとりがとても音楽的で、楽しんで聴くことができました。

名フィルは満丸さんを首席に上げるべきだと思いますね。私は彼のソロを聴きたいです。

ベートーヴェンの七重奏曲

私はこの曲、大好きです。とりわけ第三楽章は、いかにも若いベートーヴェンという感じがしますよね。今回、あらためてちゃんと聴いてみると、当時としてはかなり斬新であったのだろうなと思います。交響曲第1番と同時期の曲ですが、ホルンの使い方とかは、より挑戦的なのでは?

良い演奏でした。三浦さんの、いかにもコンマスというリードの下で、みんながひとつになって進んでいく様子は、聴いていて熱いものがありました。なかでも私が感銘を受けたのは、ディヴィッドのヴィオラの素晴らしさ。内声部がこれだけ雄弁(でも悪目立ちはもちろんしません)だと、音楽の躍動感が一段上がります。そして、コントラバスの岡本さん。この人もすごい。西欧古典音楽の基盤は、厚くて豊かなバスであるということをあらためて認識しました。

管楽器では、ホルンの加藤さん、果敢に攻めていてよかったです。べヴェさんと廣幡さんは同じオケで並んで吹いているだけのことはあり、息の合ったアンサンブルが素晴らしい。

収容人数100人くらいのホールなので、音圧を感じました。これはこれで魅力的なのだけど、東京文化会館の小ホールあたりの音響で聴いてみたかったな、とも思いました。 素晴らしいコンサートでした。ありがとうございました。

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元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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