「干された指揮者」を聴きに行く〜オーケストラAfiA 第12回演奏会

実力の世界といわれるクラシック音楽界にも、当然ながら政治はあります。

「そういえば、あの人は最近どうしているんだろう。」という場合、端的に言ってダメになってしまったケースと、あまり数が多くはないのでしょうけれど、「干されている」ケースも。

器楽演奏家や声楽家の場合には、聴けばわかります。自分で音を出さない指揮者となると、それがなかなか難しい。でも聴かないことには何もわからないので、雨の中紀尾井ホールまで出向きました。その感想です。

 

 

「干されている」と噂されているのは、村中大佑さん。東京外大のドイツ語科を出て渡欧。ウィーン高等音楽院の指揮科を出て、巨匠ペーター・マークの弟子となり、イタリアで活動。

2001年だったか、当時の新国立劇場の音楽監督だった五十嵐喜芳に抜擢されて魔笛を指揮し、出光音楽賞を受賞。N響、読響、東フィルなどにも登場し、大いに活躍するかと期待されましたが、パッタリと国内メジャーオケには出なくなりました。

その後、イギリスで活動したり、横浜市とタイアップしてオペラを振ったりはしたものの、このところ国内での活動は、自分が集めてきたメンバーで構成されたオーケストラAfiA の演奏会に限られています。

噂では生意気だから干された(当時彼は30歳くらい)ということなんですが、どうなのでしょう。

昨夜はシューマンの第1、第3交響曲の間にラヴェルのピアノ協奏曲を挟むプログラム。ピアノはグローリア・カンパーナさん。オケは弦が8−6−4−4ー3。管は2管編成でした。

私は紀尾井の2階正面最前列で聴きました。お客の入りは悲劇的で、2階席は私を含めて14人。1階席は4割くらいでしょうか。気のせいか残響が豊かです。

シューマン 交響曲第1番

奇を衒わない、良い演奏。すごく強いアピールがあるわけではなく(そもそもそういう曲でもないし)、しかし構成のしっかりした演奏でした。これくらいの編成だと、トライアングルがよく聞こえます。シューマンが念頭に置いていたオケは、これくらいのサイズだったのでしょうかね。

ラヴェル ピアノ協奏曲

これは、とてもよかった。面白く聴きました。グローリア・カンパーナは大柄の女性ピアニストで、良い意味でとても主体的な演奏。ふだん聴くこの曲の演奏より、10歳くらい若いという印象。ちょっとガーシュインのように聴こえる部分があったりするんですよ。こういう編成で聴くと、ラヴェルが時計職人人のようだと評されていたのが良くわかります。また、管のトップが皆うまいので、部品がきちんとハマって回り出す感じなんですよね。

シューマン 交響曲第3番 「ライン」

ある意味、ドイツ的な曲です。私はホルスト・シュタインがバンベルク響を振った演奏を聴いたことがありますが、第三楽章などはドイツ民謡かと思うほどでした。それはそれで、とても素晴らしい演奏だったのですが。

村中さんの解釈はそういう線ではなく、彼がもともとピアニスト志望であったことを想起させるような演奏であったと思います。ところどころで、面白い聴かせ方をするんですよね。なんというか、彼のこだわりの響かせ方というか。

この曲はホルンセクションが鍵であるわけですが、昨夜はブラヴォーでした。トップは都響の首席だった笠松さん。トランペットは読響の田中さん。管の首席はみなさん上手でした。

演奏会を聴き終えて

悪くない、いや、とてもよかったと思います。ラヴェルに関していえば、私が今まで聴いた中でのベストです。

この指揮者、国内のメジャーオケを振ったらどうなるのでしょうかね。

村中さんはこのところメルマガとかサロンとかの活動に力を入れておられるようなので、より一層反発されて、またしても「干されて」しまうのかもしれませんが。

この記事を書いた人

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元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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