昨年は無観客演奏となってしまった、セイジ・オザワ松本フェスティバルのオーケストラコンサート。感染者数は今年の方が多いのですけれど、盛大に開催されました。いろいろ意見はあろうかと思いますが、私は英断であると思います。 ただ、ホテルにチェックインしてみると、TVのリモコンにビニールカバーがかけられていたり、客室の電話機が撤去されていたりしていて、地方都市にありがちな外来者への警戒感の強さをひしひしと感じました。こういう雰囲気のなかで挙行されたのですから、事務局の皆さんはさぞかし大変だったことでしょう。
さて曲目はというと、前半に武満徹の「セレモニアル」とドビュッシーの管弦楽のための「映像」。後半はストラヴィンスキーの「春の祭典」指揮はシャルル・デュトワ、「セレモニアル」のソリストは宮田まゆみさん。
武満徹:「セレモニアル」
30年前にこの音楽祭がスタートしたときの皮切りが、この曲であったのだそうです。ソリストはその時と同じ、宮田まゆみさん。この曲でのコンマスは小森谷さんで、サイドに矢部さん。
笙は言ってみれば小型のパイプオルガン。古典的な楽器だと、リードを竹管に固定するのに蝋を使います。これがとてもデリケート。宮内庁楽部の演奏会で観察していると、ひとりひとりの奏者の手元に火鉢が置かれていて、温度を調整するのです。今回宮田さんが使っておられた笙はおそらくは「モダン楽器」で、そこまでする必要はないのでしょうね。それにしてもオーケストラとどのようにチューニングされたのかついては、興味があります。
デュトワも武満作品を結構振っているとのことで、危なげの無い演奏でありました。
ドビュッシー: 管弦楽のための「映像」
矢部さんがコンマス、サイドに小森谷さん。第二ヴァイオリンのトップに豊嶋さん。私としては、この曲が当夜のベスト。「これがフランス音楽だ」と言わんばかりの薫り立つ演奏。デュトワの指揮も凄いけど、矢部さんのリードも凄い。 この曲が終わったときに、デュトワが抱きつかんばかりに熱烈に矢部さんを讃えていたのもうなづけるところでした。
こういう曲になると、フルート、オーボエはフランスの名手でないとつとまりません。オーボエはマテュー・ペティジャン。フルートはなんとジャック・ズーンが1番で、2番がセバスチャン・ジャコー!(ズーンはオランダ人ですが)。これはさすがのひとこと。最初の曲でコールアングレのソロを吹いた五味春花さんも素晴らしかった。
この曲だけでも、松本まで来た価値がありました。
ストラヴィンスキー:「春の祭典」
豊嶋さんがコンマス。サイドが矢部さん。
たいへん立派な演奏でありましたが、その上で賛否は分かれるかと思います。デュトワの解釈は、この曲がパリで、パリ音楽院管弦楽団によって初演されたということを思い出させるものであったと私は感じました。つまり、「フランス音楽」としての春祭。
冒頭のファゴットのソロを吹いたのは、我が国を代表する名手、吉田将さん。おそらくデュトワの指示によるのだと思いますが、リードを浅く咥えて、さながらバッソンのような音でした。そのあとのバスクラをデフォルメするように鳴らした意図は何だったのか…
全体を通じて、管の妙技もさることながら、弦のニュアンスの精妙さが際立つ演奏でした。とりわけそれを感じたのが、第二部の冒頭部。不思議な、と言ってもよいくらいの弦の音。
ティンパニが「あの」ライナー・ゼーガーズなので、「仁王叩き」を期待したのですけれど、なんというか、弦へのアクセントにどどまる感じ。打楽器陣にとっては、フラストレーションが溜まったのではないでしょうかね。
そして、サプライズ
デュトワへのソロ・カーテンコールが2回を数えた後、この日のサプライズが! 満場総立ちで拍手。
オーケストラについて
好楽家の皆さんのために、メンバー表を貼っておきます。綺羅星のようなリストですよね。
ズーンは別格でした。ペティジャンも、いかにもフランスの菅。あと、ホルンのバイラントさんも素晴らしかった。私が聴いたのは1日めでしたが、二日めには彼女が乗らなかった(濃厚接触者ということで?)とのことですので、どうなったことやら。
デュトワが偉いのはよく分かりましたが、その上で、音楽祭としてそれだけで良いのかという疑問は残りました。来年、どうするのでしょうか。