別格のモーツアルト、原色のシューマン:NHK交響楽団

日本の管楽器奏者のレベルは驚くばかりの向上をみせているけれど、欧米の主要オケの首席奏者ポジションとなると、まだなかなか。ダブルリードの場合、その昔の中川良平さん(サンフランシスコ交響楽団首席ファゴット奏者)、宮本文昭さん(ケルン放送交響楽団首席オーボエ奏者)でしょうか。吉井瑞穂さんはルツェルン祝祭管の創設メンバーであり、グスタフ・マーラー室内管弦楽団の首席オーボエ奏者ですから、現時点で日本人が到達した頂点におられると言ってよいと思います。その彼女のモーツアルト。池袋の芸劇には楽器を抱えた人々の姿も目立ちました。

この日の曲目は、最初にハイドンの交響曲第95番。そして私にとって本日のメインである、モーツアルトのオーボエ協奏曲。後半はシューマンの交響曲第1番「春」。指揮は鈴木雅明さん。コンマスは白井圭さん。

ハイドン:交響曲第95番

吉田秀和先生でしたっけ? 日本のオーケストラの演奏するハイドンの素晴らしさはもっと世界に知られるべきだとおっしゃっていたのは。そんなことを思い出しながら聴きました。溌剌とした演奏。さすがN響の弦、上手いです。藤森さん【チェロ首席)のソロも美しい。お見事。

この曲については、私はセル/クリーブランド管の端正な演奏を愛聴しているのですが、こういう生気あふれるアプローチもいいなと思いました。

モーツアルト:オーボエ協奏曲

この曲については数多くの名演奏を聴いてきたわけですが、忘れることができないのが1983年3月のN響の演奏会。そう、北島明さんのデビュー戦。これがそのときのプログラムです。(みなさん、お若い!)

ついに日本のオーボエもここまで来たのか、と感じさせる圧倒的な美音でした。このときの嬉しい衝撃は、今でもよく覚えています。

余談ですが、この日の開演前のロビーコンサートで、「コントラバスの新人です」と紹介されていたのが池松さん(!)でした。もう38年前のことです。

さて、なんでこんな話をしているのかというと、吉井さんの演奏を聴いて、ついに日本のオーボエ奏者の中から、世界のトップに位置する人が出た、と感嘆し、興奮したからです。いやいや、すごかった。

この日は湿度が高く、第一楽章の中頃まではオーボエが十分に鳴らず、吉井さんもタンポの水をこまめにとっておられました。が、モノクロからカラーに切り替わったかのように楽器が鳴り始め、そのあとはもう別格の演奏でした。短いカデンツァ的にフィガロ序曲の冒頭を交えたり、遊び心もみせて素晴らしい演奏でした。

鈴木さんの指揮はサポートするというよりもオーボエに対抗する趣き。趣旨はわかりますが、そうであるならばオケは10型から絞るべきであったと思います。時として、バランスがオケに傾きすぎた局面があったように私は思いました。

アンコールは賛美歌405番。最後の「アーメン」まで吹いてくださいました。

シューマン:交響曲第1番「春」

Twitter では絶賛の嵐が吹くなかでこんなことを言うのは顰蹙かもしれませんが、私は「面白い」とは感じましたが、感心はしませんでした。というか、より率直に言えば私の好みではありません。

鈴木さんのインタビューによれば、「生命力の爆発」というイメージとのことなので、これだけオケを鳴らすのは宜なるかなとは思いますが、私が感じるこの曲の魅力はそこには無いのでこのアプローチだと、管楽器はほとんど全曲にわたって強奏することになってしまい、それはシューマンが求めていたものだろうかと。

ロジャー・ノリントンほどの「あざとさ」は無いので、それは良いのですが。

原色のシューマン。これはこれで、なかなか聴けないものかもしれません。

オケについて

コンマスの白井圭さん、ほんとうに素晴らしい。日フィルに客演されたときもオケの音が変わりましたが、今回もいつものN響とは違いました。フルート神田さん、オーボエ青山さん、さすがでした。やっぱりN響、たいしたもんです。

この記事を書いた人

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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