高齢の経営者が引退を拒否するとき、周囲は何ができるのか

80歳を超えても引退の勧めに耳を貸さない経営者。 なんとか説得してほしいと依頼されることがあるのですが、お断りしています。まず絶対に耳を傾けてはくれませんし、周囲の人々にとっては、経営者に引退勧告するよりも他にやるべきことがあるからです。

なぜ引退しないのか

他にやることがないからです。

いつまでも権力の座にしがみついているように周囲からは見えますが、意外にもそうではないことが多いです。それよりも、引退した自分をイメージできないことのほうが理由としては大きいと思います。

それに、基本的に人間は変化を嫌う動物です。高齢となれば尚更のこと。いまさら新しいことを始めるなんて億劫だ、と口には出さないものの、思っていたりするわけです。

そしてもうひとつ。後継者が頼りないと思っているからです。

後継者がいないので引退できないというケースは、実は少ないと私は思っています。とくにファミリービジネスの場合には、息子さんなり娘さんがおられます。しかし親からみると、子供はいつまでたっても子供なので、頼りなく見えてしまうものなのです。

さらにいえば、経営者を長くやればやるほど、後継者へのハードルは上がります。いろんなことが見えてきてしまうからです。これが理由でバトンタッチのタイミングを逃す経営者は少なからずおられます。

 

さて、どうすればよいのでしょうね。 それぞれの会社によって事情は異なるので、一般論を語るべきではないのかもしれませんが、それでは話が進みません。

敢えてざっくり申し上げると、このような場合、周囲、とりわけ後継者がやるべきことは大きくいって2つあると私は思っています。

 

辞めさせるのではなく、学ばせてもらう

理想を言えば、「目の黒いうちに事業継承」です。しかし、引退してくれと頼んで、「わかった」とやめてくれるような人であれば、とっくにそうしてくれているわけですから、単に引退勧告をするのは愚の骨頂です。ばっさり断られることは、私が保証します(笑)。

ではどうするか。 頭を下げて、経営者の道を学ばせてくださいと頼みこむのです。学ばせてもらい、支えとして力になりたいのだと訴えるのです。

どうしてそこまでしなければならないんだ? と反発される方、よく考えてみてください。高齢の経営者が続投するリスクをかんがみれば、社員のためにも頭を下げるプライドを犠牲にすべきだと思われるませんか? 頭を下げるのはタダです。

退く経営者の「役割」をつくる

経営から退いたあと、まったく違った仕事に打ち込める人はほんとうに少数派です。そんなことを求めるのは無理筋です。

ここでいう「役割」とは、社外のポストではありません。社内で、いかにも象徴的な重みを持つ「役割」のことです。

この秋からの朝ドラのモデルである日清食品の安藤百福さんは、97歳で亡くなるまで新製品を試食していたといわれています。安藤さんがOKを出さないと発売できないということになっていたそうです。これなどは、私の言う「役割」の良い例ですね。

 

社長の座にしっかり足を踏みしめて立っている経営者の軸足の重心を、少しでも後継者のほうに傾けることができれば、事態は動きはじめます。 それは、地位にしがみついているように見える経営者が、内心密かに望んでいることだからです。

追記: 「目が黒いうちに事業継承」というのは、尾畑酒造の尾畑留美子さんがつくられたキャッチフレーズです。ちなみに尾畑酒造では、理想的な事業継承を実現されておられます。

この記事を書いた人

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元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して17周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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