ファミリービジネスにおける後継者の育て方(1)〜「よその飯」の大切さ

「息子が来年卒業したら、すぐに会社に入れて鍛えようと思うのだけど、どうですかね?」と相談されることがありますが、私はオススメいたしません。ファミリービジネスの後継者にとっては、いわゆる「よその飯」を食べることが非常に大切だと考えているからです。具体的にご説明しましょう。

一般の会社と違って、ファミリービジネスでは後継者育成に時間をかけることができます。 ある意味では生まれたときから後継者育成が始まっているともいえるのですが、本格化するのは後継者がいわゆる就活の時期にさしかかる頃からでしょう。

一刻も早く後継者を自分の会社に入社させ、自らの手で鍛えたいという経営者の気持ちはよくわかります。ですが、私は後継者に「よその飯」を食べさせることを強くお勧めしています。つまり、まずは他の会社に入社させるということですね。

なぜ「よその飯」が必要なのか

他人に使われるという経験が、後継者にとって大切だからです。

学校を出て、すぐに親の会社に入るとしましょうか。社長が「遠慮せずにビシビシ鍛えて欲しい」と語ったとしても、社員にしてみれば無理な相談ですよね。

どうしても遠慮して手加減してしまいますし、最悪の場合には将来の厚遇を期待して後継者を甘やかす上司が出てこないとも限りません。 そうなると、後継者にとって、社会人としての基礎訓練が疎かになってしまうことになりかねません。

親の会社ではなく他の会社に単なる一人の新入社員として入れば、他人に使われるということがどんなことなのか、どんな気持ちになるか、身をもって知ることができます。これは、親の会社に戻って、人の上に立つためには不可欠な経験です。

もう一つ。「やり過ごし」がどんなものであるかを知らなければなりません。サラリーマン経験のある方には同意していただけると思うのですが、上司の思いつきのすべてに対応していたら体がもちません。いま何が大切なのかを考え、大事でない仕事は後回しにしますよね。

これを「やり過ごし」と呼びます。これができるとできないとでは大違いです。(東北大学の高橋伸夫先生は、《できる社員は「やり過ごす」》という本を書かれているくらいです。)

「やり過ごし」と「さぼり」は大きく異なります。でもそのことは、他人に使われる立場にならないと、わからないんですよね。それがわからずに親の会社で部下を使うようになると、部下がさぼっているように見えてしまい、苛立ちが増すのです。

どこに行かせるのか

私は後継者自身に、自分が入る会社を探させることをお勧めしています。

ときには取引先(よく聞くのは商社ですかね)にお願いして後継者を預けるケースが見られますが、やめたほうがよろしいでしょう。手加減されることは確実です。 数年たったらいなくなる人を本気で育ててはくれません。。 それに、変な借りをつくることにもなりかねませんよね。

業務知識を得させるためと称して、関連業界に行かせる事例もあるのですけれど、これもお勧めしません。それは親の会社に戻ってきてから学べばよいことです。それに、関連業界ですと、「〜さんの息子さん」として扱われる可能性は否定できませんし。

結論を申し上げますと、縁もゆかりもない業界に行くのがよいと私は考えております。

後継者にとっては厳しいかもしれませんが、それも貴重な経験となるはずです。

いつまでよその飯を食べせておくのか

理想を申し上げれば、「部下を持つ地位に上がるまで」です。日本の会社だと入社6〜7年めくらいに係長に昇進し、部下ができるようになります。

親の七光りではなく、自分の実力で部下を指導した経験があれば、戻ってきたときに大きな自信になるはずです。

そこまで待てないのであれば、2〜3年。

会社によって事情は異なりますが、たいていの場合は入社して最初の2〜3年は社会人としての基礎訓練の期間となっています。これが完了するまで。

この期間を過ぎると、その会社特有の癖がついてしまう場合がありますので、スパッと区切りをつけましょう。

 

次に、よその飯を食べさせた後継者をいよいよ会社に戻すとき、どのように扱うべきなのか。 この点については、また回をあらためてご説明したいと思います。

ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

この記事を書いた人

元永 徹司

元永 徹司

ファミリービジネスの経営を専門とするコンサルタント。ボストン・コンサルティング・グループに在籍していたころから強い関心を抱いていた「事業承継」をライフワークと定め、株式会社イクティスを開業して12周年を迎えました。一般社団法人ファミリービジネス研究所の代表理事でもあります。

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